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2005.11.16
優秀なゴルファーは『勇敢なる臆病者』だ
 

■原本
近藤彌一『ゴルフの心理』
・発行=昭和9年9月10日
・発行所=三省堂
・A5判178頁/定価=1円30銭
・国立国会図書館にて閲覧可能

原本写真1
著者の近藤彌一は知名度こそ低いが、ボビー・ジョーンズの「私のゴルフ」など多数の名著を翻訳し、世に出したゴルフ界の功労者だ

■著者
 東京日日新聞社の運動部記者として、野球を担当していたが、外国で盛んなゴルフが我が国でも盛んにならないはずはないと考え、ゴルフを始めた。

 最初は、ステッキ代わりに、戸山ヶ原でクラブを振り始めた、いわゆるアパッチゴルファーの一人だが、武蔵野カンツリー倶楽部(平山コース)の開場に際しては、新聞社幹部を説得して協力を引き出した。

 目黒書店の雑誌『ゴルフ』創刊当時(昭和6年11月号)の編集者。昭和14年当時、秩父カントリー倶楽部(昭和15年10月、東京ゴルフ倶楽部と合併)の常務理事。ゴルフライターの草分けの一人。

■解説
 ゴルフの心理面を中心に取り上げた最初の文献。

 チャールス・ムーアの『The Mental side of Golf』とレスリー・ショーンの『The Psychology of Golf』を土台にし、その他の文献の心理面に関する部分を取り入れて19項目にまとめたものである。

 著者が三省堂から出版したゴルフ書4冊の中の1冊である。

『ゴルフ的テンペラメント』  近藤彌一

 ゼー・エツチ・テイラー(*編集部註1)であつたと思ふが、こんなことを言つてゐる。彼が知つてゐる優秀なゴルフアーは總て『勇敢なる臆病』とでも呼ぶべき性質を持つてゐると。

これは實にうまい言葉だ。自動的にどんな優れた技倆を持つてゐやうとも、總(あら)ゆるゴルフアーに必要な心的態度を一言に道破した名言だ。

 困難や、不運に直面した場合は勇敢でなければならぬ。各ストロークの危險を見積り、過大な成功の機會を掴まうとする欲求を抑制する場合には臆病でなければならぬ。

確かにこの『勇敢なる臆病』といふ言葉は、チヤムピオンシツプの競技者はもとより、アヴレエヂ・ゴルフアーにも必要とする理想的な『ゴルフ的テンペラメント』(*編集部註2)の一切を含んでゐる。

 最も秀れたゴルフアーといふものは、疑ひ深い、そして臆病な、常に何かしら突發的な危機を豫想(よそう)してゐる人である。グリーンに來た時には、ホールから一番遠いところにある球が自分のだと信じ切つてゐる悲觀論者である。

かういふプレイヤーは何事にも氣を許さないから、二、三のホールでは好成績を收めても勢ひに乘つて自己滿足に陷るやうなことはない。

 注意の集中が失はれる最も危險な場合は、萬事が順調に進行してゐるときである。不注意に打つた唯一つのシヨツトが多くの後悔を招くやうなことが往々あるが、結果に於ては苦心して打つた惡球よりも、不注意なシヨツトの方が必ず状態を惡くするものである。

全體の氣勢を殺いで混亂(こんらん)に陷れる惧れがあるからだ。避け難い過誤は容易に諦めることが出來るが、不注意から起つたものはさう簡單に片づけられない。

大抵のゴルフアーは經驗上から何んなに心を打ち込んでも、大部分のシヨツトは完全とまでは行かないことを知つてゐる。

しかし實際に謂れなく打ち流したストロークの場合は、そのミスを合理的に受け容れ、同じ氣組を以て次のシヨツトに移ることは却々(なかなか)困難である。


*註1 J・H・テイラー。
1890年代から1900年代の初頭にかけてハリー・バードン、ジェームス・ブレードとともに活躍、ゴルフの三巨頭と呼ばれた。全英オープン5勝。

*註2 テンペラメント(temperament)=気質。

[続]
続きは11月30日(水)更新予定です。
監修・文/鈴木康之
資料・文/森口靜彦
*隔月刊誌チョイス 2005 No.148より


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