ゼー・エツチ・テイラー(*編集部註1)であつたと思ふが、こんなことを言つてゐる。彼が知つてゐる優秀なゴルフアーは總て『勇敢なる臆病』とでも呼ぶべき性質を持つてゐると。
これは實にうまい言葉だ。自動的にどんな優れた技倆を持つてゐやうとも、總(あら)ゆるゴルフアーに必要な心的態度を一言に道破した名言だ。
困難や、不運に直面した場合は勇敢でなければならぬ。各ストロークの危險を見積り、過大な成功の機會を掴まうとする欲求を抑制する場合には臆病でなければならぬ。
確かにこの『勇敢なる臆病』といふ言葉は、チヤムピオンシツプの競技者はもとより、アヴレエヂ・ゴルフアーにも必要とする理想的な『ゴルフ的テンペラメント』(*編集部註2)の一切を含んでゐる。
最も秀れたゴルフアーといふものは、疑ひ深い、そして臆病な、常に何かしら突發的な危機を豫想(よそう)してゐる人である。グリーンに來た時には、ホールから一番遠いところにある球が自分のだと信じ切つてゐる悲觀論者である。
かういふプレイヤーは何事にも氣を許さないから、二、三のホールでは好成績を收めても勢ひに乘つて自己滿足に陷るやうなことはない。
注意の集中が失はれる最も危險な場合は、萬事が順調に進行してゐるときである。不注意に打つた唯一つのシヨツトが多くの後悔を招くやうなことが往々あるが、結果に於ては苦心して打つた惡球よりも、不注意なシヨツトの方が必ず状態を惡くするものである。
全體の氣勢を殺いで混亂(こんらん)に陷れる惧れがあるからだ。避け難い過誤は容易に諦めることが出來るが、不注意から起つたものはさう簡單に片づけられない。
大抵のゴルフアーは經驗上から何んなに心を打ち込んでも、大部分のシヨツトは完全とまでは行かないことを知つてゐる。
しかし實際に謂れなく打ち流したストロークの場合は、そのミスを合理的に受け容れ、同じ氣組を以て次のシヨツトに移ることは却々(なかなか)困難である。
*註1 J・H・テイラー。
1890年代から1900年代の初頭にかけてハリー・バードン、ジェームス・ブレードとともに活躍、ゴルフの三巨頭と呼ばれた。全英オープン5勝。
*註2 テンペラメント(temperament)=気質。