二人は又默つて歩いてゐた。默つてゐると久里のゴルフ・ズボンが道化役者のやうに餘計にブタブタに揺れておかしくみえた。
「お前もこの町は初めてだらうね。」
「えゝ。」
「僕達も隨分方々を廻つたね。」
「長い間私達は苦勞しましたわ。だけどそんな苦勞は何んでもなかつたわ。今から思ふと皆たのしかつたの。貴方があの人の事を思ふやうになるまでは。」
「ルイーゼ。それは間違ひだよ。そんな事はもう言はん事にしてくれよ。」
「…………」
「わたくしだつて言ひたくはないの。だけどつい出るの。」
少年(キヤデイ)からミツド・アイアンのクラブを受取ると、又無心の形をしてルイーゼが草の中にある白い球を打つた。浮きあがつた。少しトツピングがかかつたので球は低く蝶々のやうに地面を摩りながら遠くまで飛んだ。久里が打つた。それから又歩いた。その間にルイーゼがスライスのかかつた球をだしたりして、その上到頭厄介なハザードの中へ打ち込んだ。
「しまつたわ。」
「しまふ事はないよ。」
久里が打つた。すると久里も亦同じハザードに入れてしまつた。
「どうも何だね。今日は二人で眞似の仕合ひをしてゐるやうなものだ。」
「長い間一緒に暮したんですものね。」
彼等は唯だ歩いた。歩いてゐるとやがて彼等は何もかにも忘れた。忘れるといふ事が彼等を一層ゴルフ好きにするらしかつた。(後略)

「空を飛んでいる女」