■原本
草上來太郎著『ゴルフの常識』 発行=昭和2年4月30日初版 発行所=ゴルフドム刊行会 A6判174頁/定価=1圓70銭 国立国会図書館で閲覧可能。

古本屋で偶然入手できたらそれこそ幸運。これは初版本で、わずか800部しか印刷されなかった。
■著者
草上來太郎はゴルフドム刊行会の創業者伊藤長藏のペンネームである。明治20年(1887年)〜昭和25年(1950年)。関西の貿易商。
日本人による初のゴルフ誌『阪神ゴルフ』創刊(1922年)の中心的存在。のちにこれが『日本ゴルフド厶』となった。ゴルフ古書の収集にも精力的で、その勉強の成果を本名と草上來太郎のほか、草場丘人、山野卯三郎、好雪堂等のペンネームを使い分けて、評論、観戦記、随筆、レッスン、翻訳等々に惜しみなく書き綴って世に伝えた。わが国のゴルフ黎明期に於ける読むゴルフの先達である。
■解説 本書は「第一章ゲームの性質」から「第十二章ゴルフの参考書」に至るまで、広く浅くゴルフ全般について述べている。

縦書きで、英語を片仮名で表示している点が、同じ時期に発行された他のゴルフ文献と違って、読者が読みやすいように工夫してある。
さらに特筆すべきことだが、英語のカナ表記が必ずしも適切でなかった時代に、「アイヨン」を「アイアン」、「オノア」を「オナー」と書くなど、今日の表記に近い表現を工夫、初心者思いの書き手の良心がうかがえる。
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『ゴルフの常識』 第一章 ゲームの性質 草上來太郎
『球も澤山居るのでせぅ?
『球は一人で一個です。各自が自分の球を一個持つて、それをクラブで打つて或る距離の彼方にある小さな穴に入れるのです。使ふ球は何時も一個ですが、その球をよく失ひます。[前回より]
『うまく穴に入りますか?
『入りますとも、----イヤ實はなかなか入らないので皆が浮身をやつすのです。ですからなん度にも打つて、穴に近づいて行き愈々接近した處(ところ)で、狙ひを定めて轉(ころ)ばし込むのです。
『ゲームと云うふのは、唯それだけなんですか?
『先づさうです。一つの穴に入れるとその球を拾ひ上げて次の穴に向つてまた打つて行きます。さう云ふ穴が十八ある。その十八を一番から順次に打ち出しては入れして、行くのをワン、ラウンドと云つて、そのワン、ラウンドになん度球を打つたか、その度數を計算して數の少ない者程いゝとして勝負を定めるのです。
『至極簡單の樣ですネ。
『簡單ですとも、處が實際はなかなかむつかしいのです。球を打ち出す處から穴迄の距離は穴に依つて違つて居ます、短きは百二三十ヤード遠きは五百五十ヤード以上あつて、いろいろあります。そしてそれを連續して行く道程には、山あり谷あり川あり森があつて千變萬化の地形である上に、人工的に各種の障害を造つてあります。それを避けたり越えたりして穴に接近して行くのですから、よく飛ばさねばならず又正確に狙はねばならず、容易な事ではありません。然し面白いです。
『やれば面白いとは聞いて居ましたが球を打つ丈けがそんなに面白いですかネ?
『何故面白いかと聞かれると一言で答へるのは困りますが之を始めた人に止めた者はないかと昔から云はれて居ます。何處かに魅力があるのですネ。或る學者はこんな事を云つて居ます。男子の頭を悩ますものに三つある。一は形而上學、二は女の心、三はゴルフと、一寸うまく云つて居ますョ。
[以下、次回に続く]
文/鈴木康之 資料/森口靜彦 *隔月刊誌チョイス No.138より
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