ゴルフの図書館
名手・達人の言葉
No.65
2005.12.21
マイ・ベービー。うちの子と同じ泣き声だ。おじさんもこのパットをやめて早く家へ帰りたくなったよ
トム・ワトソン

この言葉は1983年、全英オープンが行われたロイヤル・バークデールの最終日、
15番ホールで聞かれた。

ワトソンら4人が首位に8アンダーで並び、
ワトソンはこのホール、3・5mにつけてバーディを狙うパットの構えに入った。

シーンと静まりかえった中、突然子供の泣き声が。
人々が沈黙したのが恐くなったのか、
2歳くらいの男の子が泣き出してしまったのだ。

睨みつけられ糾弾されると思った父親は身をすくめる。
しかし、ワトソンはにこっと笑って
冒頭の言葉をやさしく投げたのである。
ほっとした空気と陽気な笑い声がギャラリーをつつんだ。

ワトソンはそのパットを外したものの、
次の16番でバーディをとり、そのまま逃げ切り5回目の全英オープン優勝を果たした。

ワトソンは温厚篤実、知性の人として知られる。
名門スタンフォードを卒業(これが難しい)して、
もしプロゴルファーにならなかったら、弁護士になっていたろう。

もし、あの時、ワトソンが怒りまくっていたらどうなったろうか?
その怒りで自分の心を壊しはしなかったろうか?

あの言葉でギャラリーの中に救われた空気が流れ、
子煩悩、温かい家庭を大事にしているであろう
ワトソンを応援するような雰囲気になったことは確かであった。
その場で取材した筆者自身が感じたことである。



■トム・ワトソン(トーマス・スタジェス・ワトソン)
1949年、米国生まれ。スタンフォード時代は勉学に力をそそいだのか、これといった成績は残していない。71年プロ入りと同時にツアー参加。ツアーでの勝利39。メジャーは全米オープン1勝(82年)、マスターズ2勝(77、81年)、全英オープン5勝(74、77、80、82、83年)計8勝。帝王二クラスを継ぐ新帝王といわれるまでになったが、極度のイップスに襲われ、全米プロはとれず、グランドスラマーにはなっていない。シニア、他の勝利を加えれば55勝をこえる。知性派として知られ、88年にはゴルフ殿堂入りも果たした。



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