
2007.7.2
優勝候補は僕を入れて4人。とうとう最終ホールのグリーンまできた。残りおよそ1・5メートル。パーチャンス。これを外せば負け、入れれば勝ちは確実だ。はあ、緊張に体が震える。この試合にはどうしても勝ちたい。なぜなら、ある事情から今後の出場は難しくなったからだ。僕には今回しかない。そう思うと、余計に緊張する。落ち着け、落ち着け、落ち着きさえすれば、絶対に勝てるんだ。
そうだ『ゴルフ54ビジョン』に書かれていたことを思い出せ。そうすれば、プレッシャーは必ず消える。
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『ゴルフ54ビジョン』の著者で、アニカ・ソレンスタムのコーチであるピア・ニールソンは、――≪プレショットルーティン≫をどうするかで、そのショットが成功するか失敗するか、少なくても80パーセントは決まってしまう――と断言している。
そしてプレショットルーティンは、人それぞれ、100人いれば100通りあり、自分がいいショットをしたときのことを思い出すことで見つかるという。
「ナイスショット!」
と思わず自分で口にしたくなるほど、気分爽快なショットを打てたとき、大事なことは、どんな球が出たかよりも、そのとき――何をしたのか、どんな音を聞いたのか、心理状態はどうだったのか――を確認することだ。
例にあげられているラリー・マイズの場合は、――「アドレスに入る前に必ず1つ、何かサインのようなものを体に送ることにしている。帽子のツバを触るとか、ズボンの上から太股をポンと叩くとか。僕の場合、それによってグッドショットを打つための回路のスイッチがオンになる」――。
僕の場合は、こうだ。握っていたパターを高々とかがげると、僕は目標方向に並ぶ木の中から一本を選び、その木にパターを重ねた。
ちょうど、イチローがバッティングの前にするポーズに似ている。イチローのポーズは、緊張をほぐす目的で、打順ボードに書かれた自分の名前に、かかげたバットを重ねたことから始まったそうだ。
それを僕も真似て……おっとピアは人真似でプレショットルーティンをつくってはダメだと言っているが、まあ憧れの選手をイメージ……ってイチローは野球選手だが……しかし、イチローの堂々たる姿に自分の姿を重ねて、僕の場合は自分を盛り立ているというわけだ。
『ボールを打たずに上手くなる!』
石渡俊彦
●A5判・並製・本文144頁
●1470円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊
次に『ボールを打たずに上手くなる!』で紹介されている、疲労による骨盤のねじれを解消するストレッチを始めた。
著者の石渡俊彦プロによれば、――かなりの上級者でも疲れてくると体の向きと意識の向きにズレが生じる――という。その最大の原因が≪骨盤のねじれ≫で、するとアウトサイドインのカット打ちになったり、パッティングでは目線とボールの転がりにギャップが出てくる。
それを解消するためには、
★1★背筋を伸ばし、右足を前にして両手を右ひざにあてる
★2★左足を後方に伸ばし、腰をしっかりゆっくり沈めていきながら左股関節から左前ももをストレッチ
★3★最初は左足つま先は前に向けたまま行い、ほぐれてきたら、つま先を≪直角≫に変え、さらに深く腰を沈める
そういえば、さっき目線とボールの転がりのギャップという話をしたが、正直なところ僕はギャップばかりだ。相当、骨盤がねじれているのかもしれない。『ボールを打たずに上手くなる!』で体全体のゆがみを直そうと思っている。
なにしろ江連忠プロが『芯に当たっちゃうゴルフ』で――パッティングが上手くなるためには、目で見た実際の距離と、自分の脳で感じた距離が一致するような振り幅、ヘッドスピード、球の転がりを身につけることが大事――だといっているし、ギャップをうめる努力が必要だ。
体の状態を整えるとともに『芯に当たっちゃうゴルフ』で江連プロの教えてくれているパッティングが上達するドリルを徹底的にやろう。
……とと、いけない、いけない。先のことも大事だが、いまはこの場面に集中しなければ。
『芯に当たっちゃうゴルフ!』
江連忠
●B6判・並製・本文192頁
●1575円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊
僕があれこれ考えていた間に、ライバル3人はパーを逃した。さあ、いよいよ僕の出番だ。入れればこれで、優勝は決まった。
僕は深呼吸しながらそっと目を閉じ、体の感覚を研ぎ澄ました。力をみなぎらせ、パッと目を開く。すたすたとボールに向かって歩き、カップインするイメージを描きながら素振りし、構え、ストロークし、打った。
ボールは、読みどおりのゆるいスライスラインをたどり、まるで、カップに引き寄せられるようにして、カランとゴールのいい音をたてた。
「やったー!! 俺の優勝だ!!」
力を込めてガッツポーズを決めた俺は、体じゅうがじんわりと熱くなり、目は涙でうるんだ。みんなに、打ち明けた。
「みんな、聞いてくれ。俺、転勤が決まったんだ。東京から、大阪に移ることになった。おそらく、戻ってくることはない。この試合は、最後の試合だったんだ。隠していて、ごめん。物凄いプレッシャーだったけど、俺は頑張ったよ。互いに、離れても必死に練習しよう。いつか、いつかまた、一緒にラウンドできる日がくることを願って……」
仲間A★「はいはい、大げさなんだよお前は。東京と大阪なんて新幹線で2時間の距離なんだから、ラウンドはすぐできるよ」
「でも、この試合は大学ゴルフ書を読む会サークルのOBで、さらに東京在中の者に限ったコンペじゃないか。大阪在中になる僕は、参加できないんだよ」
仲間B★「それなら安心していいよ。ちょうど幹事のAとも、そろそろ東京在中の縛りはなくそうかって話してたんだ。だってほら、今回だって2組しか集まらないんだから。来年も呼んであげるよ」
仲間C★「それにしても、ぷっ、優勝した君のスコアは?」
「105」
仲間C★「けっけっけっけっけ、俺らってほんっとゴルフ下手な」
仲間A★「レッスン書を山ほど読んでるのにな、ちぇ。」
仲間B★「今度、上達のための読み方研究会でも開こうか。どんな読み方をすれば上手くなるのか」
仲間A★「お、それいいね。よし、さっそく計画たてようぜ!」
仲間はうきうきとして弾む足取りでクラブハウスへ向かった。その背中を眺めながら、僕の目に、再び涙がじわりと浮かんだ。
僕……遠くへ行っちゃうんだよ。送別会とか、してくれないの? しかも優勝者なのに……。
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