ゴルフの図書館

BOOKS19番ホール

2007.6.15

ちょっと黙ってて!

「キャディになって半月しか経っとらん新米じゃけぇ、迷惑かけるかもしれんがよろしゅうね」
「大丈夫ですよ。僕らは皆ゴルフ歴5年以上ですし、セルフプレーにも慣れてますから」
「ほっほっほ、さっすが東京もんは頼りになるでね」
「ははは、今日はおしゃべりを楽しみながら行きましょう。おしゃべりしながらプレーするとね、健康になれるんですって」
「そりゃ、『医者のいらない暮らしがしたい』に書いてあったでね。キャディ室に置いてあったけぇ、私も読んだんよ」

「医者のいらない暮らしがしたい」
丁 宗鐵
●四六判・上製・本文208頁
●1575円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊
「医者のいらない暮らしがしたい」

 大学時代のサークル仲間である僕らは、旅行先でゴルフを楽しむことにした。明るいおばちゃんがキャディをしてくれることになったので、スタートから笑いがたえず僕らはほっとしている。

「それじゃあキャディさん、『医者のいらない暮らしがしたい』を参考に僕らの健康状態もチェックしてよ。ほら、いろいろ書いてあったじゃない」

「ああ、プレー中にできる健康チェックっちゅうやつじゃね。まかせんしゃい!」

 キャディさんは威勢良く胸をたたいた。本当に、明るい雰囲気のラウンドこそ、体も心も元気にしてくれる。
 ところがホールを進むにつれて、ちょっと困った事態が起きはじめた。

「あんた、さっきからボールが左ばかりにいくでね、手打ちになってるじゃなぁかね。──バックスウィングでは左肩があごの下に入るぐらい、しっかり上半身を──ひねらんといけんよ」

「キャディさん、新米とかいって、よく知ってるじゃない」
「ふふん、昨晩『宮里藍に教えてきたこと。』で読んだんじゃよ」

宮里藍に教えてきたこと
『宮里藍に教えてきたこと』
宮里 優
●B6判・並製・本文192頁
●1575円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊

「へえ、そりゃ勉強熱心だ。でもね、左にいくのはわざとなんだ。僕はもともとスライス、あ、右に球が飛ぶ癖があって、それを直すために左に打ってるんだよ」

「なんかね? 私はスライスくらい知ってるでね、わざわざ言い直してくれんでええよ。それよりおまえさん、見かけによらず見栄っ張りなんね。照れんでええから、よう聞きんさい」

「で、でもねキャディさん、俺、レッスン受けてるコーチに癖を直すときは思いきって正反対のことをしろって言われて、それで……」
「ええから、ええから。でな著者の宮里優コーチによりゃあ、こげん話じゃ」

──ダウンで両股に挟んだゴムまりをつぶすようなイメージで、右ひざを左ひざに向かってグーッと締めて行けば、自然に体重は左サイドに乗っていきます。それができていれば、引っかけは起こりにくいはず──。

「次に上半身じゃが……」
「……。あ、後ろの組が追いついてきた! キャディさん説明は後で聞くよ。渋滞つくっちゃいけないからね」
「ほんとじゃ、急がんと。私としたことが、つい夢中なってしもぉて悪かったのぉ」
「いいって、いいって」

 こんなことがしょっちゅうで、俺たちは困ってしまった。しかし体を縮めてしゅんと落ち込むキャディさんをみると、ほっといてくれよ! と強く言い放つことはしにくい。俺らはその都度、目配せして肩をすくめあった。技術以外のことなら、話していて楽しいんだけどなぁ。


新装版 岡本綾子LESSON!
『新装版 岡本綾子LESSON!』
岡本綾子
●B6判・並製・本文176頁
●1260円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊

 そして、とうとう……。

「待ちんさい!」
「な、なに、キャディさん。俺、これから打つんだけど」
「あんた、打つ前にほれ、これ試してみんさい」

「おしぼり? そっか、汗をふけってことか。ありがと。でもちょっと湿りすぎだよ、もうちょっと絞らないと、」
「ちょっ、ええの、絞らんでええの。その濡れタオルはグリップの練習用じゃけぇ、グリップして私の言う通りにしてみんさい」

「……これも、何かに書いてあったの?」
「ふふふ、岡本綾子プロの『LESSON!』じゃね。まずアドレスでは──指の形がうっすらとつくくらいの強さ──で握るじゃろ、──それからテークバックの指導で、キュッと──」

「もういいって! キャディさんが勉強熱心なのはよくわかったよ。ほら、また後ろの組が見えてきちゃったじゃないか! スロープレーこそゴルフでは最も嫌われるんだよ。一番大事なことがまったくわかってないじゃないか!」

「じゃけど、あんた、」
「だからもういい! 何も言わないでよ!」
「……わかったでね、もう余計なこたぁ言わん。何度もへまやってしもぉて、すまんかったねぇ」

「あ、ああ。キャディさんほら『キャディに乾杯!』を読むといいよ。キャディの楽しさだとか、仕事の要領がよくわかるようになると思うよ」
「おおきに」


キャディに乾杯!
『キャディに乾杯!』
リック・ライリー/山本光伸・訳
●四六判・上製・本文240頁
●1575円(税込)
●ランダムハウス講談社刊

 キャディさんはすっかり肩をすぼめて落胆した様子だったが、次のホールに進むころにはもとの明るさを取り戻し、技術については一切触れないまま別の話題で盛り上がった。言った直後は後悔もしたが、いまは言ってよかったと思っている。

 その後は始終会話が弾み、気持ちよくプレーできたこともあって、俺は2年ぶりにベストスコアの更新を果たした。

「やった! やった! すっげー嬉しい!!」
「じゃけど、あんた……いんにゃ何でもなぁ」
「いいよ、言って」

「……私しゃあ、あんたがゴルフ歴5年以上言うは見栄と思ぉてたんよ。じゃけぇ、いらん口出しをしてしもぉて……」
「ははは、ひどいなぁ。俺のスウィング、そんなにひどかった?」

「そがぁな事なぁが……じゃけど、あんた、クラブ≪15本≫入ってたでね」
「え? ええ! それじゃルール違反でベストスコアは取り消し? うそぉ〜」
「あ、あんた、大丈夫かね!? 突然しゃがみ込んでどがぁしたん!?」

 それだけは早く教えてくれなくちゃ。あまりのショックで脱力した俺に、怒鳴る気力などもうなかった。


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