ゴルフの図書館
BOOKS 19番ホール
2007.4.27

友人にこっそりアドバイス


『ゴルフ54ビジョン』


 友だちと練習場にいると、彼が突然「あ〜あ」と大きなため息をついた。
「なんだよ。調子いまいち?」
「んー、そういうわけじゃないけど、いろんなレッスン書の理論を読んで、ああしなくちゃこうしなくちゃって考えてたら、どんなスウィングも、どんな球打っても、ダメな気がしてさ。練習してもこう、覇気が出てこないんだよ」
「ふうん。そりゃ大変だ」
 友人は何でも思いつめすぎる傾向があるので、気楽な俺は放っておいて自分の練習に励んだ。俺だってゴルフじゃうまくいかないことばかりだが、悩んだからって上達するとは限らない。俺はとにかく球が打てれば楽しいんだ。
 しかしその晩、俺は友人に、とってもいいアドバイスを、とってもこっそり、教えてあげることになった。


『ゴルフ54ビジョン』

ピア・ニールソン/川野美佳・訳
●B6判・並製・本文232頁
●1575円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊




 なんと、夜中に目が覚めたら、俺は幽体離脱をしていた。
「なんじゃ、こりゃ!」

 夢? 夢でしょ? 夢だよね? しかし意識が妙にはっきりとしている。そこで俺はある実験を試みた。本棚をあさり、友人の嘆きに応えられる本を探して、友人の家に飛んでいって、こっそり届けてあげようと考えたのだ。

『ゴルフ54ビジョン』。うん、これがいいだろう。

 アニカ・ソレンスタムのコーチ、ピア・ニールソンの本で、練習を楽しくするためのコツが載っている。

 たとえば、パッティングの距離感を磨きたいとき、ストロークの振り幅で調整しろだとか、インパクトの力加減で調整しろだとか色々な意見や理論がある。どの理論もそれぞれに正しいのだろうが、そのすべてを自分一人が身につけようとしても、それは無茶だ。

 そこで、ピア・ニールソンは、──自分にはどの方法が一番合っているかを──把握するドリルを紹介している。

 それは、──どんなストロークで、どの程度の力加減で打てば、どれだけ転がるかという感じをつかむ──練習法だ。

──最初に2メートルのパットを打ち、続いて4メートル、6メートル……と徐々に距離を伸ばしていきます。目標をクリアにするために2メートル置きにティペグで目印をつくっておくといいでしょう。2メートルから始めて10メートルまでいったら、今度は逆に10メートル、8メートル、6メートル……と徐々に距離を短くして練習します──。

 さらに右脳の働きを活発にし、練習を楽しむ方法として、次のドリルを加える。

 パッティングしたら、目をつぶり、ボールの行方を言い当てる。──「カップの右に20メートルショートした」とか「カップの左で、1メートルオーバー」──という具合だ。

 これで、──自分の感覚と結果とのズレを知る──ことができる。

タイガー・ウッズも震えてる。

『タイガー・ウッズも震えてる。』
ジオ・ヴァリアンテ
●B6判・並製・本文200頁
●1365円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊

 ……おっと、ゆっくり自分で読んで楽しんでいる場合じゃなかった。急がないと、自分の体にいつ戻るかわからない。って戻れなくなっても困るんだけど。

 さっそく俺は友人の家まで飛んでいき、予測通り壁を難無く通り抜け、彼の机の上に本を置いた。

 次の朝、昨晩の≪アレ≫は夢だったのか現実か、本棚を探ると『ゴルフ54ビジョン』はなかった。やっぱり現実だったのか? そこで友人に電話をかけてみると、こちらが話す前から「ああ、『ゴルフ54ビジョン』だろ?」と友人はけらけら笑った。

 その反応で現実だと確信を得た俺は、数日後にまたもや幽体離脱をすると、今度は『タイガー・ウッズも震えてる。』と、『1日5分でシングルになる! ゴルフメンタル』の二冊を友人の家に届けた。

 友人はどうもメランコリックな傾向がある。そこで、『ゴルフ54ビジョン』に続き、ポジティブな思考で明るくゴルフを楽しめるようになる本を≪こっそり≫渡してあげることにしたのだ。

『タイガー・ウッズも震えてる。』は、マイナスの発想をプラスに転じるための言葉の使い方によるテクニックなどが紹介されている。

 一方『1日5分でシングルになる! ゴルフメンタル』にあるイメージトレーニングでは、悪いイメージが浮かんだときでも、それをプレーの向上につなげられるようになる。

 忘れかけていた本の内容を思い出し、これで俺のゴルフも上達しそうだ。そしてこの二冊を再び友人の机の上に置くと、俺は自分の体に戻り、眠りについた。

1日5分でシングルになる! ゴルフメンタル

『1日5分でシングルになる! ゴルフメンタル』
児玉光雄
●新書変型判・並製・本文160頁
●893円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊

 次に練習場で友人に会うと、彼はいきいきとしていた。
「俺の渡したあの3冊で、すっかり君は明るくなったねぇ」

 悦に入って俺が声をかけると、友人は「は?」と不思議そうな顔を向けた。そこで
「実はさ、君が目覚めたときに机に置いてあった1冊と2冊は、俺が夜中に届けたものなんだ。どうやって届けたかっていうとそれは、」
 とびっくりさせてやるつもりで俺が話し出すと、友人が口を挟み、思わぬことを言った。

「何を言ってるんだい? その3冊っていうのは『ゴルフ54ビジョン』と『タイガー・ウッズも震えてる。』と『1日5分でシングルになる! ゴルフメンタル』だろ? それは僕がもともと書店で見つけた本だ。それですっかりやる気を取り戻したから、君にも勧めようと思って、夜中に≪こっそり≫届けたんじゃないか」

「届けたってどうやって?」
「幽体離脱だよ。だから、最初の一冊を届けた次の朝に君から電話がきたとき『ゴルフ54ビジョン』だろ? と言ったじゃないか」

 この不思議な現象に、友人は悩み、再び鬱状態になってしまった。俺の方は、興奮が一層増して、浮かれて練習どころじゃなくなった。こうして、向上しかけた友人と俺のゴルフは、もとの通り停滞した。


 

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