私がゴルフを始めたのは、一年前。それから半年後に彼と出会い、つき合い始めた。その彼は、ゴルフ歴6年のシングルだ。
つき合い当初からツーサムで回ろうという話はしていたが、都合がなかなかあわず、今回、ようやく実行できた。しかしプレー後、私はロッカールームで静かに一人涙を流す結果となったのだ。
だって、彼ってクラブを握ると、穏やかな人柄がヒステリックに豹変してしまうんだもの。
たとえば、フェアウェイで素振りをした際、彼ははるか向こうのラフから、猛烈な勢いでこちらへ駆けてきた。
「な、なによ、びっくりするじゃない」
「え? 読んだわよ? マナーとエチケット、それにゴルフに対する心構えまで書かれたいい本だから絶対に読むといい。そうあなたに言われたから、もらったその日のうちに読んだ、」
「『ピーターたちのゴルフマナー』を読んでいれば、それは──昔は厳しく戒められていた不作法のひとつ──だったとわかっていたはずだ。素振りは、これから打つ方向とは別の方向を向いてしなくてはいけない! 口先だけで読んだといっても、嘘はバレバレなんだよ!」
読んだもん。ぱらぱらっと一回だけだけど……、書いてあったことたしかに結構忘れちゃってるけど……。言い訳したかったが、あまりに凄まじい彼の怒り様に言葉が出なかった。
しかし、マナーは教えられて感謝すべきもの。知らん顔している人の方が、どうかと思う。そう自分に言い聞かせて、私は気持ちを切り替え、自分のプレーに集中することにした。 ところがさっそく次のホールで、私が4パットをしてしまうと、今度は突然、後ろから頭をこづかれたのだ。いっそドメスティックバイオレンス! とでも叫んでやろうかと思った。しかし振り返ったときに、恐ろしく怒った彼の顔がいきなり目に入り、またもや声が出なくなってしまった。一体、今度はなに!? 「女子プロゴルファーのいいレッスン書があったら読みたいっていうから、岡本綾子プロの『LESSON!』を2カ月前にあげたのに、君、これも読んでないだろう?」 「読んだわよ! 剣道の上段の構えから入るアドレスでしょ、おしぼりをしぼるようなスウィング中のグリップの力加減でしょ、他にもいろいろ参考にして実践しているじゃない」
「じゃあ何でいまのホールで、4パットもしたんだい?」 「恥ずかしい、本当にそう思っているのか? 本気だったら『LESSON!』に──ロングパットだからといってあまりにもテークバックを大きくとらない──と書かれているのを、しっかり頭につめこむはずだ。それなのに君は、さっき相当に大きく、やりすぎなくらいテークバックをとっていた」
そういえば、そんなことが書いてあった……。
こんな調子がずっと続いたものだから、ハーフを終えると、私は彼と顔を見合わせながら昼食をとることにびくびくしていた。 ところがおそるおそるレストランへ入ると、先に席についていた彼が、何とも爽やかな笑顔を浮かべて、私に手を振ったのだ。そして昼食中の彼は、終始にこにことして、友人のドジした話で私を笑わせてくれた。
それどころか、彼はいままで怒っていたことなどすっかり忘れていたのだ!
しかし、後半のプレーでは再び怒り、怒り、怒り。
「本気でゴルフをする気があるのか?」 もう、いいかげんにして!! 途中でクラブを放り出さなかっただけでも、私は偉いと思う。こうして私は、彼が風呂に入ってロビーへ出てくる前に、黙ってゴルフ場を出て、彼のもとから去ることを決めた。 彼がロッカールームに入ったと同時に、すでにタクシーの手配は済ませてある。もうすぐ来るだろう。だから、顔を洗っている暇などないのだ。 ああ、私がコースを出てから数十分後、何も知らない彼はロビーのソファで、私がくるのを待つのだろう。いつものさわやかな笑顔を浮かべながら。 |
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