ゴルフの図書館
BOOKS 19番ホール
2007.4.13

タイガーになりたい


『ザ・タイガーマジック』


 2007年4月9日。早朝3時まで飲み、4時に友をつれて帰宅。即、爆睡。数時間後、目覚まし時計のけたたましいベルの音で友人とともに飛び起き、テレビをつけた。もちろん番組は「マスターズ」中継。……さらに数時間後、試合終了。そのとき友人がぽつりとつぶやいた。
「俺、今回は優勝を逃したとはいえ、やっぱタイガーになりたい」


『ザ・タイガーマジック』

ジョン・アンドリサーニ/舩越園子・訳
●B6判・並製・本文192頁
●1680円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊




「はあぁ?」
 まだ寝ぼけてんじゃねえの? 俺は試しに友人の頭を軽くこづいてみた。友人はいかにも仕方なくといった感じに「いてっ」と小声で返してから、興奮気味にまくしたてた。

「だって、タイガーのテクニックってすげえじゃん! 林からの脱出なんて僕はもう、断然、タイガーの真似をしちゃうよ。たいていのレッスン書は、林に入れたらグリーンを狙うな。一番安全で確実なルートを探せってあるけど、男はやっぱロマンを求めてタイガーのように、ひしめく枝の隙間から、わずかにのぞく空を見つけて、その穴を抜け、木々を越えて、ピンに寄せたくなっちゃうよ」

 まったくあきれるやつだ。俺は鼻で笑ってやった。
「なにがロマンだよ。真似たところで、ボールは途中の枝にぶつかるのが落ちだろ。下手すりゃ自分の方にボールがはねかえってきて、一人コントになるだけさ」

 が、すぐに俺はあるものを思い出した。本棚をあさって目的の本を見つけると、それを友人に差出して、ピースサインを送った。

『ザ・タイガーマジック』を読めば、その林脱出の成功率が、ちょっとは上がるかもしれないぜ」

 今度は友人が「はあぁ?」と軽く眉をしかめた。構わず俺は本の紹介を続ける。
「この本はタイガーのショートゲームのテクニックに的を絞り、その素晴らしさを賞賛しながら、なぜそのような凄技を繰り出せるのか、そのポイントを解説しているんだ」

「じゃあ僕が言った林からの脱出ショットのコツなんかも載ってるの?」
「ああ、もちろん」
 俺は本を開いて、解説部分を指し示した。 

──タイガーが用いるのは3本のウェッジ。ボールを空中へ高く上げるためには、ロフトの大きいウェッジが不可欠です。ボールの位置は、スタンス中央よりかなり左寄り。上体をインパクト後も右サイドに残し、高い球が出やすいスウィングをします。また、フェースを開き、ロフトを大きく保ったままボールをフェースですくい上げるようにインパクトする必要がありますから、右手を左手の下側に回し入れる要領でリリースします──

王者のドリル 軽装版

『王者のドリル 軽装版』
クロード[ブッチ]・ハーモンJr. 岩井基剛・訳
●B6判・並製・本文176頁
●1260円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊

「トラブルショットに関しては、他に『ピンが見えない場所からボールを寄せるショット』『深いラフからの短いピッチングショット』『バンカーの砂の上を転がして寄せるクリエイティブチップショット』『ノーマルスタンスが取れない場合のショット』など、全部で35種類の状況について解説されているんだ」

「へぇ! そりゃ参考になりそうだね。……しかし基本がわかっていないと、トラブルに対してどれくらい構えなりスウィングなりを変化させればいいのか、その度合いがわかりにくいなぁ」

「それなら心配いらない。ほら、本を見てみな、≪ショット前≫≪セットアップ≫≪バックスウィング≫≪ダウンスウィング≫のそれぞれの基本がまとめられているだろ? これらの基本事項をまず押さえてから、状況別の対策に進めるようになっているんだ」

「寄せのショットに加えて、パッティングについてもしっかり書かれているね。こうなるとすべてのショットをタイガーのように決めたいっていう欲が出てくるよ」
 友人の言葉に、俺は再び、本棚をあさった。

「それなら、『王者のドリル』でスウィングを徹底的に磨くといいよ。著者は、かつてタイガーの第一次黄金期を支えたコーチ、ブッチ・ハーモン。本書にはたくさんのドリルが紹介されているけど、それらはタイガーをはじめ、──世界のトッププロたちが真剣に実践し効果のあったものだ──」

『王者のドリル』『ザ・タイガーマジック』に続けて友人に手渡すと、友人は即座に、夢中になってページを繰った。はしゃいで俺に宣言する。

「これで俺も次回のラウンドからタイガーだ! 一カ月後、楽しみにしてろよ! この本借りてくぜ。さっそくこれから練習だ!」

 そして一カ月後のラウンド。さあ友人はどれほど上達しただろうか。楽しみにしながらロッカールームで着替えていると、誰かに肩を叩かれた。

 振り向くとともに、俺は一歩退いた。なんだこの奇妙な男は? 肌がてかるほどに異様に黒く、細い目をムリヤリ大きく見せようとしている。まつげをくるんとカールさせ、接着のりかなんかで不器用に二重をつくっているのだ。

 かかわりたくねえ〜。顔をそらした瞬間、「僕だよ、僕」とその男はぷっと吹き出しながら言った。その不気味な男こそ、友人だったのだ。くすくすと笑いにつかえながら、友人はその異様な姿の理由を教えてくれた。

「あのあと、練習場ではっと気づいたんだけど、僕はゴルフを始めてたった二カ月だろ? それでタイガーのテクニックを一カ月という短い期間で身につけようなんて、いくらなんでもむしがよすぎる。そこで順を踏んで、まずは見た目から入ることに決めたんだ」

 ……。俺は生まれて始めて、絶句するという言葉の意味を知った。


 

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