そして、彼は言った。
簡単にあげると、
「くわしくは、繰り返すが、私の本『アスレチックスウィングの完成』を読んでもらいたい」
突然のレッドベターの登場に僕はあっけにとられたが、すぐに、はっとして構えをいったん解き、ボールから少し離れて言われたことを試した。その本ならすでに読んでいて、内容も記憶している。
そのうち、入らないという感覚がすっと消えた。そのままスタスタと歩いてボールのもとへまで戻り、入らない! なんて感覚がよみがえる隙を与えないように、スピードを落とさずストロークし、ボールを打った。
ああ、気持ちがいい。ボールが、カップに吸い込まれていくようだ。よし、入るぞ。はい、る……。
目が覚めた。夢か。
そして、そのイメージトレーニングは、本当に役立った。まさに、夢とうりふたつの状況に、僕は遭遇したのだ。
ショートパットがどうしても失敗するとしか思われず、体が固まりかけたとき、幻のデビッド・レッドベターが僕の目の前にぼんやりと現れた。その姿は徐々に鮮明になっていく。そのうちに
ところがやがて頭の中で響いた声はたしかにこう言った。 「私の本『ゴルフのすべて』を読んでくれればわかるが、――ある経験豊かなプロがラウンドの途中に――、――ほかのショットは好調なのにショートパットが突如としてまったく入らなくなってしまった――。このとき彼は、ある思い切った行動に出て、パッティングの勘を取り戻した。さて、どんな行動だろう?」 「それなら、本を読んでいるので知っています。ショートパットが狂い出し、何回かミスした後に、約4フィートのいやなパットが残ったとき、――彼はつかつかとボールに歩み寄り、目をつむって、この反抗的な球体をカップの真ん中に叩き込んだ――」 「その通り。ショートパットのコツは、――ホールまでのラインを決め、決然としてそのライン上にボールを打ち出したら、あとはどうにでもなれと開きなおることである――。嫌な勘がするなら、もう、目をつむったまま打ってしまいなさい。カップを見ていたら、いつまで経っても動けやしないぞ」 夢のように僕ははっとし、今回は目をつむったまま、「ある経験豊かなプロ」よろしく、ボールを打った。数秒後にカランと、気持ちのいい音が聞こえてくるはずだ。僕はさらにじっとし、耳に神経を集中した。
と、またカップインの直前に、僕は目を覚ました。
まさか、いくら夢でも同じ状況が三回も出てくるはずはない。得意な1メートルのパット、フックラインを残したというのに、いや〜な予感が胸中をもやもやと漂い始めたとき、僕は今度こそ現実だと確信した。 ふん、こんな不安はすぐに拭えるさ。僕はなんたって、このパットについて、一流コーチのレッドベターと、球聖ボビー・ジョーンズにレッスンを受けているんだ。 僕はレッドベターが教えてくれたパッティングの感覚をよみがえらせるドリルを試してから、ボールに近づくと、思い切って目を閉じた。さあ、もうこれで不安はない。
そのとき、 ひょっとして、これもまた夢? しかし、さっきまでの夢とは違い、『芯に当たっちゃうゴルフ』はまだ読んでいない。内容がわからない。ってことはこれは現実だ。 僕は軽いパニックを起こした。4つ目が気になって仕方がないのだ。いっそ閉じた目を開いて、仕切りなおしをしながら、仲間に直接尋ねてしまおうか。だが、目を開いたら、また嫌な感覚が、今度はもっと圧倒的な強さでよみがえってきそうだ。 しかも、仲間は4つ目を思い出せずにいる。仲間が立っている背中のあたりがむずむずしてきた。ああ、もう限界だ。ボビー・ジョーンズのいうとおり、ショートパットは開き直りが大事。もう打ってしまえ! 開き直るのとやけになるのとは似ている様で、やはり違う。やけで打った僕のボールは、右に強く打ち出しすぎて、カップよりも右で止まった。 そのむなしい結果をみてから、友人は「そうだ、4つ目の原因は芯でボールをとらえていないことだった」とぼそっとつぶやいた。遅いんだよ。 これでことごとく調子を落としてしまった僕は、「お先に」と言いながら2回も外すことを3ホールで続け、そのうちにショートパットが残ると、傍から見てわかるほど、体がぶるっと露骨に震えだした。 そして最終ホール、また同じショートパット。ここまできたら、それこそ開き直って打つしかない。大げさにずっかずっかと足踏みしてボールに向かい、目を閉じ、構え、打った。果たして今度こそ、
「あなた、いい加減もう起きないと、スタートに間に合わないわよ」 どうなってんだ今日は。「ほらほら早く、起きなさいって!」と妻に手を引かれながら僕は夢の中の誤った記憶に気づいた。『芯に当たっちゃうゴルフ』も僕はしっかり読んでいる。なんで読んでいないなんて確信を抱いていたのだろう。夢はいよいよ不思議に感じられた。 |
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