友人と僕は打席をいったん離れ、クラブをかかげながら会話をする振りをして、彼をこっそり観察した。
「ばか、お前知らないのかよ。あれは『中心感覚打法』にある自然な動きでスウィングするための体操だよ。軸はつくるものではなく、生まれるもので、あの体操をやってるとその感覚がわかってくるんだ」
その体操とは、
≪5≫体の左側(目標方向)に歩き出すようにして、頭を左にゆっくり大きく動かしながら、左足を体の左側に10センチ程度踏み出す。これがダウンスウィング〜フィニッシュの動きになる
この運動ができたら、さらに第2の体操へとステップを踏むらしい。また≪1≫のまっすぐ立つのにも、正しい立ち方があるようだ
「プロも基本的なことから練習をスタートするんだね」
「お前、俺の言葉を軽くかわしたな? ……まあ、いいや。
「へえ。あのプロが使ってるのは……」 「へえぇ。やっぱプロはこだわってるなぁ。あ、体操やめて今度は座って瞑想みたいなことをしてるよ。そうか、練習に最大限集中できるように、球を打つ前に精神統一をするんだね。やっぱやっぱプロは違う」
「あれはきっと『幸福論』にある≪正心調息法≫だ。100歳超えてゴルフをしている医学博士の著者があみだした呼吸法で、彼は前立腺肥大症も白内障もその呼吸法の助けで克服できたらしい」
「ほう! 君も物知りだけど、プロもいろんなこと知ってるんだね」
とそのとき「おぉ〜!」という喚声が、二階打席から聞こえてきた。プロも動きをとめて、声の方を見上げる。そこへ受付のりっちゃんがやってきた。すると、 僕らはぽかんと口を開いた。今までの貫禄はどこへやら、プロ? は突然でかい図体を縮こませ、体躯に似合わぬ甲高い声でりっちゃんに尋ねた。
「ああ、ツアープロが来てるんですよ。凄い球を打つらしくて、見た人はみんなびっくりしちゃうの」
「ねえりっちゃん、今の人は誰か知ってる?」 僕らは、言葉を失った。 |
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