ゴルフの図書館
BOOKS 19番ホール
2007.2.23

なんていい奴


『中部銀次郎 銀のゴルフ 第三巻』


 最終ホール。405ヤードのパー4、セカンドショット地点で、僕は迷っていた。スプーンで打てばバーディを狙える。しかしオーバーした場合、またはショットが左右にぶれた場合、そこには、苦手なバンカーが待ち構えているのだ。バンカーは避けたい。しかし今日はまだバーディをとれていない。いまが、最後のチャンスなんだ。
 こうしてなかなか決断できずにいると、仲間の一人が僕の傍へやってきた。
「迷ってるんだろ? でもね、『銀のゴルフ 第三巻』にこんな話がある」
 彼は、語り出した。


『中部銀次郎 銀のゴルフ 第三巻』

中原まこと・作/政岡としや・画
●B5判・並製・本文206頁
●1050円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊




「生前、プロより強いアマといわれていた中部銀次郎さんが、息子の隆さんとラウンドしたときのことだ」

――5番パー5飛ばし屋の隆が2オンした。銀次郎は、それを見て褒めるどころか、いきなり「バーカ」と言った――

「なんで? すげえじゃん」
 僕が疑問を投げかけると、彼は「チッチッチ」と人差し指を振って、話を続けた。

――「もう一度打ってみなさい」と銀次郎は命じた。隆のボールは池に捕まった。さらにもう一度、今度はあわや右OB。3回に1回しか成功しない確率の低さを身をもって証明させられた挙句、 「10発打って8オンできるなら狙ってもいいが、3分の1の確率しかないのにトライするのは」勇気ではなく「バーカ」と隆は再び叱られた――。

「さて、君はどうだろう? 無事にグリーンに乗せ、バーディをとれる確率は?」
「う〜ん」

 僕はうなってしまった。3回に1回よりは成功する気もするが、――10発打って8オンできる――自信はない。迷いは深まったが、いつまでもこうしてはいられず、僕は決心した。
「よし、あきらめた! ここは刻んでバーディでなく、パーを狙う!」

「俺もそれに賛成だ。中部さんは、――ドライバーが怖ければ短いクラブでティショットした。2オンできるパー5でも池に入れる可能性があれば必ずレイアップした。アプローチはミスの少ない転がしに徹した。パットは常に2パットでよしと考えて臨んだ――。その結果、彼がどんな偉業を成し遂げたか知ってるかい?」
「ああ。日本アマ通算6勝、だろ」

新世紀フェアウェイウッド論

『新世紀フェアウェイウッド論』
藤田寛之
●A5判・上製・本文178頁
●1575円(税込)
●池田書店刊

 バーディの欲望を頭から払いのけた僕は、アイアンを握り、イメージどおりのショットで花道に乗せた。そして、中部さんのいう通り、アプローチは転がしだ! と打ったところ、思いがけずチップインバーディをとれたのだ。

「ヤッホゥ!」
 カップに球が入った瞬間、僕は無意識のうちに声をあげ、ガッツポーズをしていた。アドバイスをくれた友が「やったな」とにこにこ顔で僕の肩を叩いた。ああ友よ、君のおがけさ。

 彼は本当にいい奴で、スタート前の練習場でも、僕がスプーンを持って練習しようとすると、こんな助言をくれた。

『新世紀フェアウェイウッド論』によれば、――スウィング作りは5番ウッドから始める――のがいいそうだよ。そして、5番を握ったら、まずはハーフスウィングで、50ヤードの看板を狙ってごらん」

「そんなの簡単さ」。僕は鼻で笑ってしまった。ところが実際にやってみると、これがなかなか思い通りにいかないのだ。

 その原因は手打ちにあるらしい。――手の感覚で合わせている限り、正確に50ヤードの看板にボールを運ぶことは――できない。

 そこで『新世紀フェアウェイウッド論』に紹介されている、手先を使わずに体の中心部でボールを打つためのドリルを、彼はスタートまでみっちりと、自分の練習を犠牲にしてまで、僕に教えてくれたのだった。

 帰り際、今日のお礼をしようと彼を夕食に誘った。しかしあいにく、彼は夕方から用事があるという。仕方なくまっすぐ家に帰り、時間を持て余した僕は、久しぶりにクラブを磨くことにした。すると、

「お、折れてる……」
 ぼ、僕の、せ、先週、か、買ったばかりの、スススス、スプーンが……、ヘッドカバーを外したら、ヘッドとシャフトの境目部分が添え木をされ、ガムテープでぐるぐる巻きになっていた。おそるおそるテープを外した途端、ヘッドはシャフトを離れ、地面へ落下した。

 そういえば……、今日の「あの彼」からのアドバイスは、みんな、スプーンを持たずに別のクラブを持たせようとするものだった。彼に電話し問い詰めると、彼はあっさり吐いた。

「あちゃ〜、もうバレちゃったか。実は今朝、練習しようと思って自分のクラブをとりに行ったら、横に置いてあった君のキャディバッグにニューモデルのクラブを見つけたものでね。つい打ってみたくて、君が朝飯食ってる間に拝借したんだ。え? 何で断ってから使わなかったかって? いや、ハウスまで戻るのが面倒でさ、へへ、ごめんね」

 次に会ったら、ぶっ殺す。


 

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