「生前、プロより強いアマといわれていた中部銀次郎さんが、息子の隆さんとラウンドしたときのことだ」
――5番パー5飛ばし屋の隆が2オンした。銀次郎は、それを見て褒めるどころか、いきなり「バーカ」と言った――
「なんで? すげえじゃん」
――「もう一度打ってみなさい」と銀次郎は命じた。隆のボールは池に捕まった。さらにもう一度、今度はあわや右OB。3回に1回しか成功しない確率の低さを身をもって証明させられた挙句、
「10発打って8オンできるなら狙ってもいいが、3分の1の確率しかないのにトライするのは」勇気ではなく「バーカ」と隆は再び叱られた――。
「さて、君はどうだろう? 無事にグリーンに乗せ、バーディをとれる確率は?」
僕はうなってしまった。3回に1回よりは成功する気もするが、――10発打って8オンできる――自信はない。迷いは深まったが、いつまでもこうしてはいられず、僕は決心した。
「俺もそれに賛成だ。中部さんは、――ドライバーが怖ければ短いクラブでティショットした。2オンできるパー5でも池に入れる可能性があれば必ずレイアップした。アプローチはミスの少ない転がしに徹した。パットは常に2パットでよしと考えて臨んだ――。その結果、彼がどんな偉業を成し遂げたか知ってるかい?」
バーディの欲望を頭から払いのけた僕は、アイアンを握り、イメージどおりのショットで花道に乗せた。そして、中部さんのいう通り、アプローチは転がしだ! と打ったところ、思いがけずチップインバーディをとれたのだ。
「ヤッホゥ!」 彼は本当にいい奴で、スタート前の練習場でも、僕がスプーンを持って練習しようとすると、こんな助言をくれた。 「『新世紀フェアウェイウッド論』によれば、――スウィング作りは5番ウッドから始める――のがいいそうだよ。そして、5番を握ったら、まずはハーフスウィングで、50ヤードの看板を狙ってごらん」 「そんなの簡単さ」。僕は鼻で笑ってしまった。ところが実際にやってみると、これがなかなか思い通りにいかないのだ。 その原因は手打ちにあるらしい。――手の感覚で合わせている限り、正確に50ヤードの看板にボールを運ぶことは――できない。 そこで『新世紀フェアウェイウッド論』に紹介されている、手先を使わずに体の中心部でボールを打つためのドリルを、彼はスタートまでみっちりと、自分の練習を犠牲にしてまで、僕に教えてくれたのだった。 帰り際、今日のお礼をしようと彼を夕食に誘った。しかしあいにく、彼は夕方から用事があるという。仕方なくまっすぐ家に帰り、時間を持て余した僕は、久しぶりにクラブを磨くことにした。すると、
「お、折れてる……」 そういえば……、今日の「あの彼」からのアドバイスは、みんな、スプーンを持たずに別のクラブを持たせようとするものだった。彼に電話し問い詰めると、彼はあっさり吐いた。 「あちゃ〜、もうバレちゃったか。実は今朝、練習しようと思って自分のクラブをとりに行ったら、横に置いてあった君のキャディバッグにニューモデルのクラブを見つけたものでね。つい打ってみたくて、君が朝飯食ってる間に拝借したんだ。え? 何で断ってから使わなかったかって? いや、ハウスまで戻るのが面倒でさ、へへ、ごめんね」 次に会ったら、ぶっ殺す。 |
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