ゴルフの図書館
BOOKS 19番ホール
2007.1・12

隣のおじちゃん


『マンネリゴルフじゃ上手くなれん』


「パパぁ〜、隣のおじちゃんにねぇ」
 休日、ソファに寝転がりながらトーナメント中継を見ていると、5歳の息子がかけ寄ってきた。うちは社宅だから、≪隣のおじちゃん≫は私の上司だ。
「おじちゃんがどうした?」
「おんぶしてもらった」
「はあ? おんぶ?」
「うん。これの練習だって」
 息子はテレビを指差した。≪これ≫とは、ゴルフのことらしい。しかし、おんぶがゴルフとどう関係あるのだろう?


『マンネリゴルフじゃ上手くなれん』

山本信弘
●B6判・並製・本文192頁
●1470円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊




 翌日、上司にさりげなく聞いてみた。
「うちの息子が、おんぶしてもらったって喜んでました。遊んでいただいたようで」
「いやいや、こちらがおんぶさせてくれと無理に頼んだんだ。僕は離婚して子供と離れて暮らしているし、子供はもう中学生になるからね、とてもおんぶさせてくれとは言えなくて」

「そうでしたか。それで、そのおんぶはゴルフの練習だってうちの息子が言ってましたが」
『マンネリゴルフじゃ上手くなれん!』てレッスン書を君は読んだことがあるかい?」
「いいえ」
「あれはおすすめだよ。言葉では言い表しづらいスウィングの感覚を、ユニークなドリルによって教えてくれているんだ」
「おんぶもドリルのひとつですか?」

「ああ、そうだ。アドレスは、≪股関節から前傾する≫ことが大事で、その感覚をつかむには、――背中に赤ちゃんを背負ったり、重たい荷物をかついでいる姿をイメージして前傾すればいい――とあった。それで重いものを担いだりしてみたが、どうもイメージがわいてこない。そこで、近所で一番小さい君の子供をおんぶさせてもらったわけだ。おかげで実にいいイメージがわいてきたよ。今度息子さんにお礼をさせてくれ」

 はっはっはと高笑いをして上司は去っていった。そのうかれた背中を見送りながら、帰宅をしたら、私もさっそく息子を背負ってみようと決めた。

ゴルフ狂、川上哲治

『ボールを打たずに上手くなる!』
石渡俊彦
●A5判・並製・本文144頁
●1470円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊

 次の休日、いつものように寝転がっていると、先週とまったく同じように息子がかけ寄ってきた。
「パパぁ〜、隣のおじちゃんにねえ、ボール貸してあげた」
「ボール?」
「うん。バランスボール」

 バランスボールを貸したって、あんな大きなボールを外へ持っていって遊んだのだろうか? 僕は妻に尋ねた。

「え? バランスボール? ああ、はいはい。昨夜、お隣りさんが訪ねてこられて、この間息子さんにお世話になったからって、あの子におもちゃをくださったの。そのとき、ちょうどあの子がバランスボールで遊んでいるのを見て、貸してくれって頼まれたのよ。あなた、昨夜は接待で帰りが遅かったから伝えるの忘れてたわ」
「使い道までは、言ってなかったよね?」

「ご丁寧に説明してくれたわよ。『ボールを打たずに上手くなる』っていうゴルフが上達するエクササイズの本があるらしいんだけど、それに、バランスボールを使った≪下半身のふらつきを直す≫ドリルが載っているんですって。それでお隣さん、バランスボールを探してたけど、売ってる場所がさっぱりで、弱ってたそうよ」
「ふうん。どこででも買えるけどね」

 次の日、そのドリルについて上司に尋ねると、下半身のふらつきを解消するには――バランスボールを両足で挟み、強く締めつけながら、ひざでボールを潰すように乗る――エクササイズが効くのだと教えてくれた。

――バランスボールを股で強く締めつけることによって内側(内転筋)を、ひざを前に出してバランスボールにしっかり乗ることで、前側(大腿四頭筋)の筋肉が強化され――る。すると、 ――下半身のバランスがとれ、土台がふらつかないスウィング――ができるようになるそうだ。

 上司が説明をし終えると、私はすかさず、あるものを手渡した。
「よかったら、昨日バランスボールを買ってきたので、使ってください。お貸ししたボールは、使い込んでいて傷がかなりついてますから」
「これは! ありがとう、君。今度またお礼に行かないとね」

 上司は上機嫌だ。隣の住人が上司だとわかったときはずいぶん落ち込んだが、こうして思わぬところで株を売れたのだから、今となっては得した気分がする。

江連忠 新モダンゴルフ 飛ばしのレッスン!

『江連忠 新モダンゴルフ 飛ばしのレッスン!』
江連忠/山中賢介・作/沼よしのぶ・画
●B6判・並製・本文226頁
●400円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊

「パパぁ〜、隣のおじちゃんがねぇ」
 次の休みもまたまた息子が騒ぎだした。
「はいはい、どうした?」
「お家でまっ暗して、電気振った」
「はあ?」

 息子の言葉は意味不明なので、今回も妻に尋ねた。
『飛ばしのレッスン!』にね、≪スウィングプレーンを確認するドリル≫が紹介されていたらしいんだけど、それが、部屋を真っ暗にしてするみたいなのよ」

 妻の説明によると、灯りの消えた部屋で懐中電灯を2つ用意する。それを背中合わせにつないだら、――部屋のどこでもいいからターゲットラインを決め――て、懐中電灯の――真ん中を持ってスウィングする――らしい。

――その時反対方向を照らす2つの光が作り出すのがシャフトの動きが作るスウィングプレーンで――、――スウィング中常に光がターゲットラインを照らしていれば、それはオンプレーンになっている証拠――だそうだ。

「しかし、なんで暗い部屋に君らが行ったんだい?」

「あなた、バランスボールをプレゼントしたそうね。お礼だって言ってふぐのちり鍋とお刺身のセットを注文してくれるって訪ねてこられたのよ。でも、バランスボールとふぐじゃあんまり値が違いすぎるでしょ。あなたはどうせ年始セールで買ったんでしょうし。だから、実家で送ってきたみかんをおすそわけすることにしたの。そしたら、真っ暗な部屋の中からお隣りさんが現れたじゃない、あんまりびっくりしたら、その練習を教えてくれたってわけ」

「ふうん」
 真相がわかったので、妻のいる台所から、居間のソファへ戻ろうとすると背中の方から声が届いた。

「ふぐは、再来週の日曜日に届くように注文していただいたから、あなた、その日の夜は予定入れないでちょうだいね」
 ふぐが楽しみなのか、妻の声は弾んでいた。

 さらに次の休みも、私は家でごろごろとトーナメント中継を見ていると、案の定、息子が騒いだ。
「パパぁ〜、隣のおじちゃんがね、ママと車行った」
「車?」
「うん。ママどこ行くのって聞いたら、シッてしたよ」
「ふうん。どうせまたゴルフとドライブがどうのってやつだろうよ。……ってなんでうちのかみさんが一緒に行く必要があるんだよ」

 私が飛び起きると、息子は、「パパ、一人突っ込み?」とマセた口をきき、続けて「となりのおじちゃん、最近よく遊びくるよ」と笑った。ゴルフの情報なんかより、そっちを先に言え! 無邪気に微笑む息子の横で、私は頭を抱えた。


 

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