ゴルフの図書館
BOOKS 19番ホール
2006.12.22

07年、神頼み


『江連忠 新モダンゴルフ3』


 パンッ! パンッ!
 柏手を威勢良く打って、俺は神に祈った。
(どうか、07年こそ、80を切れますように)
 実のところ、これを祈るのは今回でもう、三年目だ。そろそろご利益があってもいいだろう。それに、例年は神様にただすがりつくだけだったが、07年は違う。朝、滝に打たれ、日中に坐禅をし、修行をしてここへやってきたのだ。


『江連忠 新モダンゴルフ3』

江連忠/山中賢介・作/沼よしのぶ・画
●A5判・並製・本文216頁
●1260円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊




 まず滝に打たれたのは、レッスンコミック『新モダンゴルフ3』の影響だった。江連忠プロと生徒たちが滝に打たれ、精神を鍛える場面が描かれているが、なぜ、滝に打たれることがゴルフに通じるのか、その意味を本書で知ったとき、俺に欠けているのはこれだ! と悟ったのだ。

 ちなみに、『週刊ゴルフダイジェスト』1月2日号でも、やはり江連プロがコーチをしている諸見里しのぶプロの滝修行を密着取材している。

 彼らプロたちは、滝修行の前に山を登って下るという過酷な修行をしているが、俺はごくごく普通のアマチュアゴルファーだし、一人っきりで心細いし、山登りは省いて、滝に打たれることだけをしてきた。根性なしだって? おいおいだったら君、一度滝に打たれてごらん。それだけだって相当大変なんだ。

 それはともかくとして、滝修行の後には、軽く食事をとり、坐禅に移った。坐禅の方のきっかけは、元プロ野球選手で、元巨人軍監督であった、打撃の神様こと川上哲治氏が『ゴルフ狂、川上哲治』でこんなことを語っていたからだ。

 川上氏は、『弓と禅』(福村出版刊)という本に感銘を受けたそうだが、これは、ドイツ人のオイゲン・ヘリゲル氏が書いた本で、そこには

――「矢をつがえ、高く捧げ、引き絞って満を持して射放つ。各動作は呼気によって始められ、圧し下げられた息をぐっと止めることによって支えられ、呼気によって完成する」
 と書かれているらしい。

『週刊ゴルフダイジェスト』1月2日号

『週刊ゴルフダイジェスト』1月2日号
●330円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊

 その感覚を会得するためにヘリゲル氏は、師匠にいわれて、弓道を習い始めた――はじめの一年は呼吸法に専念――した。

 なぜなら、その感覚は意識上では、本当に理解することはできないからだ。これについて川上氏は、プロ野球選手時代を思い浮かべながら、

――若いころは、いいフォームを身につければヒットが打てる、と思っていた。だがやがて、大事なのはフォームではなく、球をとらえるタイミング、≪間≫だ――と気づいたと、わかりやすく解説してくれている。

 弓でいうと、間は≪放れ≫になる。――弓の弦は、親指を含む四本の指で掴む。指を放して矢を射放つ瞬間が放れだ――。

 ヘリゲル氏は、四年もの間、2メートル先の巻藁にひたすら向かって「真の放れ」を得、さらに一年間、本物の的に向かった。これら一連の稽古は慎重すぎるように感じるが、しかし、――初めて臨んだ段位審査で、いきなり六段に合格――したのだ。

 今度は、この≪放れ≫をゴルフに置きかえれば、――トップからの切り返しの≪間≫、タイミング――に通じると川上氏は言っている。ところが続けて、――野球で、これだ、と掴んだ間は、そのままゴルフに通用しない――と嘆いているのだ。

 競技が違うとはいえ、神様と呼ばれた人でも苦労しているのだから、ごくごく普通のアマチュアゴルファーである俺が、ゴルフの≪放れ≫を得るなど、一生かかってもできるかどうかわからない。それでも、チャレンジはしてみるべきだと、坐禅で精神統一をし、呼吸を整えることにしたのだった。

ゴルフ狂、川上哲治

『ゴルフ狂、川上哲治』
川上哲治
●B6判・並製・本文208頁
●1470円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊

 そして、滝修行と坐禅を寺で終えたその帰り道、毎年きているこの神社へ、神頼みにやってきたわけだ。

 それにしても、なんて充実した一日だったのだろう。07年こそ、俺の願いは叶う予感がする。  恍惚感にひたっていると、神主さんがこちらへ歩いてきた。

「これは、これは神主さん。いま神様を拝ませていただいたところです。07年こそ、ご利益がありそうな予感がするんですよ」

 るんるんとした気分で俺が話しかけると、神主さんは顔を曇らせた。
「今年こそ……ということは、ひょっとして、今まではご利益がなかったのですか?」
「まあ、はい。俺の努力が足りなかったもので」

「いえ、こういうことは努力で何とかなるものではございませんよ。お気の毒でした。こうしてお話をうかがったのも何かの縁です。もしまたいらっしゃることがあれば、そのときはぜひ、奥さんもお連れしてください。特別にお払いをして差し上げます」

「え? 僕、独身ですけど」
「す、すみません。人には色々事情があるものですよね。では、ご懐妊された方とご一緒に……」
「ご懐妊?」
「ええ。安産祈願でお見えになったのでしょう?」

 その言葉に、俺はハッとした。
「ああ、はいはい。たしかに。そうです、そのい、い、妹なんですよ、妊娠したのは。今度連れてきます。それでは、きょ、今日のところはこれで」

 俺は猛烈な早足で神社を後にし、神主さんの姿が見えなくなったところで、頭を抱えた。そうか、この神社にいるのは、安産の神様だったのか! 3年も気づかなかったなんて、ありえねえ!

 ゴルフの願いが叶うはずがない。このそそっかしさの方が、修行やなんかよりも大きな問題だったのだ。いやそもそも、神様に≪叶えて≫もらおうとした甘えがいけなかったのだろう。こうなれば、明日こそは山を登って、滝修行からやり直しだ!


 

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