ゴルフの図書館
BOOKS 19番ホール
2006.11.10

ノートを発見


『ピーターたちのゴルフマナー』


 朝のゴルフ場、ロッカールームへ入ると、部屋の奥で一冊のノートが光を放っていた。
「な、なんだ、あれは。も、もしや、デ★ノート?」
 おそるおそる近づき、そっとノートに触れてみる。
「死神!?」
 恐怖と期待に緊張しながらあたりを見回したが、私の周りには誰もいないし、何もあらわれなかった。ちぇっ、と舌打ちしてノートをめくると、1ページ目にこんなことが書かれていた。
≪このノートは、人のプレーを不幸にできる≫


『ピーターたちのゴルフマナー』

鈴木康之
●B6判・上製・本文280頁
---> ●1470円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊




 人のプレーを不幸に? どういう意味だ? 続けてノートには、不幸にさせたい人の名前と単語を何かひとつ書けと記されていた。

 スタートホール、私は試しに、ノートへこっそりと「Aさん、ボール」と書いてみた。Aさんは嫌われ者の上司で、いつもふんぞり返って、競馬新聞を読んでいる。それなのに、私たち部下がちょっとでもおしゃべりをすれば、「お前らは仕事への意欲が足りない!」と怒鳴り散らすのだ。 たまった鬱憤を今こそ晴らすチャンスだろう。

 Aさんはティショットの順番が回ってくると、新品のクラブを自慢するかのように高く掲げながら、ティグラウンドへあがっていった。ふふふん♪ と鼻唄をうたい上機嫌だ。そして、Aさんが5回も素振りした後にショットをしたときだった。

 左の林からボールが飛んできて、Aさんの打ったボールに当たったのだ。Aさんのボールは飛球線の頂点に達する前に、思い切り右へはじかれてしまった。そして、OB。

 突然すぎて皆、状況をさっぱり飲み込めずにいると、「すみませ〜ん」とひょろひょろとした男が、頭を何度も下げながら、林の中からあらわれた。隣のホールでプレーしていたら、ボールがこちらのホールへ飛んでいってしまったのだという。

『ピーターたちのゴルフマナー』をお前は読んだことがないだろう!」
 Aさんは「フォアー!」の声が聞こえなかったとかんかんになって説教を始めた。この人は仕事と同じで、自分はマナーが悪いくせに、人のマナーにはうるさいのだ。

 僕は『ピーターたちのゴルフマナー』を読んだことがあるが、その中には――ティインググラウンドでは素振りが厳禁――とある。――ティインググラウンドは練習の場ではない。コースの中でもとくに大事な舞台である。そこを傷める危険のあることは慎まなければならない――。

 それにしても、不幸は思ったよりも軽かった。これくらいなら、他のメンバーに試しても構わないだろう。今日のゴルフは楽しめそうだ。
ゴルフ そんなやり方じゃダメダメ!

『ゴルフ そんなやり方じゃダメダメ!』
ライフ・エキスパート「編]
●文庫判・並製・本文224頁
●500円(税込)
●池田書店刊

 次のホールで、僕は「B、雨」と書いた。Bは生意気な部下だ。私より10歳年下で7年遅れて入社してきたくせに、私の考え方は古いと言っては何かといちゃもんをつけてくる。ふん、プチ不幸にあってしまえ。

 Bがアドレスをとると、素晴らしい青空に、小さいけれど、どす黒く分厚い雨雲があらわれた。急に視界が暗くなったBは、あれ? と一端アドレスをといて空を見上げ、再び構え直した。そして、切り返しをするあたりで突然、ザーッとものすごい土砂降りの雨が! それも、Bの立っているティグラウンドだけに降り注いだ。

 見晴らしのいいフェアウェイの広いホールで、Bの球は見事なまでに曲がり、OBへ突っ込んだ。こりゃ、面白い。

『ゴルフそんなやり方じゃダメダメ!』には雨の日のプレー対策が紹介されているが、ショットの途中で大雨になった例はさすがに載っていなかった。呆然とするBに言ってやりたい。「君がこのような突然のトラブルに弱いのは、君がまだ若すぎるからだ」

『この方法で生きのびろ! ゴルフ場サバイバル篇』は、このノートのために存在しているような本だ。ノートに書く単語を考えるときの参考になる。

 ボールが洗浄器にはさまってしまったとき、ボールがモグラの穴に入ってしまったとき、ゴルフカートが暴走しはじめたとき、ボールの近くにワニがいるとき、芝火事やヤブ火事に遭遇したとき……めったなことでは起こりそうにない事故がいろいろ紹介されているが、しかし、このノートを使えば、ワニがウォーターハザードから現れようと、グリーンが突然燃え上がろうと、不思議ではなくなるのだ。

この方法で生きのびろ! ゴルフ場サバイバル編

『この方法で生きのびろ! ゴルフ場サバイバル編』
ジョシュア・ベイビン、デビッド・ボーゲニクト、ジェームズ・クレース/倉骨彰・訳
●四六判変型判・並製・本文188頁
●1260円(税込)
●草思社社刊

 残すメンバーのCには恨みなどない。Cは同僚で、とてもいい奴だ。でも、試さずにはいられない。『この方法で生きのびろ! ゴルフ場サバイバル篇』に――鳥が襲いかかってきたとき――とあったことを思い出して、「C、鳥」と書いた。

 とそのとき、ぶわーっとカラスの大群が、上空を覆った。自分で仕掛けておきながら、これには私も驚き、尻餅をついてノートを落とした。その拍子に、パラパラとページがめくれ、ある言葉の書かれたページが開かれた。

 読んでみる。
≪ここに書いた不幸は、すべて最後には、自分の体を襲う≫

 ええ!? 驚いて目を丸くした刹那、私の頬にピタッと冷たいものが貼りつき、あれっと思う間もなく、大雨が一気に私をずぶ濡れにした。さらに一匹のカラスが急降下して私の体をつつき、一生懸命に逃げると、目の前から、信じられないくらいたくさんのボールが飛んできた。
 ひょっとしてこのノートは名前を書かれた人ではなく、名前を書いた人が死ぬノートだったのかもしれない。


 

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