ところが、彼は5番ホールでミスをしなかった。というより、パー4のそのホールで、ティショットをフェアウェイの好位置に落とし、セカンドショットで花道に運ぶ、そこからチップインバーディ! 見事なプレーだった。
無意識なうちのプレッシャーをバネに出来る奴はそういない。俺は前半のプレーを終えたところでさりげなく彼に近づき、どうやって切り抜けたのかを尋ねた。
「『タイガー・ウッズも震えてる』に書かれていた≪恐れなきゴルフを導く問いかけ≫を実行したんだ。お前が5番ホールでミスをするなんて不吉なことを言っただろ、だから5番ホールでは尚更、その問いかけに集中したんだよ」
「ってことはある意味、あのホールでのバーディは俺のおかげだ。だから、その≪恐れなきゴルフを導く問いかけ≫ってやつを詳しく教えてくれよ」
「いいだろう。著者はゴルフ専門の心理学博士なんだけど、PGAツアープロへのインタビューを重ねているうちに、彼らが――3つの問いかけに意識を集中させている――ことに気づいたらしい。その3つっていうのは、
★1★ このラウンドで私の目標は?
そして、この3つの問いかけに集中するほど、ミスに対する恐れが薄れ、――質の高いショットを打つことに集中――できることがわかった」
なるほど。俺のいたずらにひっかかってミスするゴルファーは、こう思う。 どうする? たってどうしようもないだろう。つまり、答えはない。答えのないことを考えるのは、状況を悪くするだけなのだ。だから、答えがあり、さらに答えが明確であるほど、プレーに集中していい結果に結びつく≪恐れなきゴルフを導く問いかけ≫が大事なんだ。 また、5番ホールで本当にミスした場合「占いで悪いと言われたからだ」と、その場限りのことにミスの原因を押しつけるのはもっと悪い。 だったら次のラウンドで俺がいじわるを言わなければ、そいつはミスをしないのか。絶対そうだとは言い切れないだろう。俺のいじわるに代わる、別の心理的プレッシャーでミスをする可能性が高い。 だから、自分はどんなプレッシャーに弱いのか探っておく必要があるし、またそもそも、もっと別のところに原因があるかもしれない。たとえばミスをした左足下がりのライがもとより苦手だとか。そうだとすれば本当に必要なことは、左足下がりを克服することだ。 うわべのことだけにミスの原因を押しつけていると、いつまでたっても成長しない。そのために本書では――正しい要因――を見つけるための方法も紹介しているらしい。
「そういえば似たようなことを『賞金王』で片山晋呉が言ってたな」 そしてそこでは、不安についてこんな風に書かれている。不安というのは、人間が――未来を憂える才能を持っているから――こそ感じるものだ。たとえば――野性の獣が獲物を狙うとき、倒して捕獲することしか感じていないだろう。「失敗したらどうしよう」「逃げられちゃうかな」などと、間違っても考えたりしない――。 「だから俺の場合は、ミスを怖がるのは人間である証拠でどうしようもないって割り切っちゃうんだ。そうするとまずちょっと気持ちが落ち着いてくる。そこで、さっきの≪恐れなきゴルフを導く問いかけ≫をして、さらに心を沈めるってわけさ」 彼にいたずらをしたのはある意味正解だった。メンタル面での思わぬ収穫を得られたからだ。俺が満足に浸っていると、「あっ」と彼が何かを思い出したように立ち止まった。 「俺も今朝占いを見たんだ。お前おひつじ座のA型だったよな? 今日は最悪だって出てたぞ。たしか……13の数字に気をつけろってさ。13番ホールは要注意かもな」
「何言ってるんだよ。俺は自分の占いしか信じないよ(いたずらだけど)」 13番ホールか……。俺は占いなんて信じないさ。占いなんて。俺は余計な不安を追い払うようにブルブルっと頭を振った。すると友人は笑いをとめて歩き出した。そして言った。
「あるホールでミスすると先に言われてしまうと、そのホールでは臆病になる。しかし、それを知っているお前自身が、実は一番、臆病なのさ」 「いいことを教えてやろう。さっきの『賞金王』に――2週間口に出して言い続ければ、それは習慣となる――と書いてある。2週間、常に自分の行動について、その目的は何か、と問い続けることをしていれば、ラウンドのとき、自然に≪恐れなきゴルフを導く問いかけ≫ができるようになるだろうよ。まっ、今日はもう手遅れかもしれないけどな」 13番ホール。俺は10を叩いた。 |
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