ゴルフの図書館
BOOKS 19番ホール
2006.9.15

聞いちゃった


『ゴルフ力の抜き方、飛ばし方』


 ラウンド後にお風呂から出ると、ロッカールームの奥からひそひそ声が聞こえてきた。好奇心をおさえられず、そうっとそうっと近づいてみる。声の主は、今日、一緒に回った会社の先輩たち二人だった。
「新人で入ってきたあの子、ちょっと外したプレーしてるのよね。あんなにグリップゆるく握って、飛ぶわけないじゃない」
「ラウンド前にやたら練習に打ち込んでたから、いざ本番て時に疲れちゃったんじゃないの? まったく最近の若い子は体力ないわよね」
 あの子って、私のことじゃん! 私はびっくりしてしまった。それにしても先輩二人して後輩の悪口言うなんて、性格悪いったらない。だいたい私はちゃんとした目的を持ってグリップをゆるく握っているのだ。
 高松志門プロの『ゴルフ力の抜き方、飛ばし方』にある≪ゆるゆるグリップ≫に習っている。私はいかにも今どきの若者という雰囲気をしているが、こう見えて結構勉強家なのだ。


『ゴルフ力の抜き方、飛ばし方』

高松志門
●B6判・並製・本文192頁
●1575円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊




 高松志門プロは『ゴルフ力の抜き方、飛ばし方』の中で、自然体のゴルフを目指せと言っている。自然体とは、――関節が楽に動く状態のこと――。頭も含めて全身の力を抜いて、クラブ任せにスウィングすることだ。

 ただし間違ってはいけないことは、力を抜くことと体をゆるめることとは違うということだ。ゆるみというと、だらっとしたしまりのない状態が浮かぶが、力を抜くというのは、そうではなくて、例えば歩いているときのような状態を指す。つまり、自然に体が動いて、崩れてしまうことがない。

 この高松プロの教えを私は気に入って、自然体を目指して猛特訓中なのだ。私よりスコアがいいといっても、7年かかってまだ100を切れていない先輩らにとやかく言われたくない。ああ、もう。ラウンド中に言われたなら言い返してやったのに!

 私が怒りに打ち震えていることに気付かず、先輩たちは悪口を続けた。

「それに、アドレスの姿勢もなんだか中途半端よね。猫背でもなく、まっすぐでもなく。もっとピシッと伸ばせないのかしら」
「ほんとよ。最近の若い子ってなんだか、だらだらしててみっともないわ」

 あー! イライラする。背筋を極端に伸ばさないのも、ちゃんと考えがあってのことなのに!

――よくアドレスでは、『背筋を真っすぐにして体の軸を意識しなさい』と――言うが、背筋を伸ばそうとすると、肩甲骨やいろいろなところに力が入る。猫背の人はそれこそ大変だ。体に緊張が走って、明らかに不自然な格好になる。

 だから志門プロは――自分の普段の姿勢から自分の自然体を知ることが大切――だと言っているのだ。先輩たちはまったくわかっていない。的の外れた話題でまだ盛り上がっている。

普通のサラリーマンが2年でシングルになる方法

『普通のサラリーマンが2年でシングルになる方法』
山口信吾
●A6判・並製・本文304頁
●680円(税込)
●日本経済新聞社刊

「やっぱりスウィングの美しさで言ったら、藍ちゃんよね。トーナメントの録画映像を見ながら、私、たまに真似してるの」

「あら、スウィングなら諸見里しのぶちゃんもきれいよ。私は雑誌に載っていた彼女のスウィング連続写真を、会社の机の中にこっそりしのばせているわ」

「それにひきかえ、あの子のスウィングはちょっとね。いかにも荒っぽくて好きじゃないわ」

 ああ、神様。あの人たちを放っておいてよろしいんですか? 私の怒りは頂点に達しつつあった。

 たしかに、私のスウィングは荒っぽいのかもしれない。しかし『サラリーマンが2年でシングルになる方法』では次のようなアドバイスがある。

――スウィングを細切れにして、この位置ではどこにクラブが来れば良いとか、手首の角度はどうなっているとか、そんなことばかり考えていたら円滑な動きはできません――。

 そう。私に言わせれば、あんたたちのスウィングは、初心者の私から見てもリズムがないのよ!

 私は荒っぽいスウィングながら、自分の体の筋肉がどう動いているのかを意識しながら練習している。そして、形よりもリズムをつくることに集中しているのだ。いまにみてらっしゃい。あの子のスウィングには敵わないって言わせてやるわ。

わかったと思うな

『わかったと思うな』
●B6判・フランス装・本文256頁
●1575円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊

 先輩たちはまだ続ける。どこまでもおしゃべりな人たちだ。

「つまるところ、あの子と一緒に回るとイライラするのよね。なんだか一生懸命が空回りしている姿って滑稽でしょ。最初は笑えるんだけど、だんだん目障りになってくるのよ」

「そうね。あの子が入る前に辞めちゃった子いたじゃない? もう名前も忘れちゃったけど。その子とラウンドしたときも、なんだかリズム狂わされちゃって、無我夢中で周りが見えてない子って面倒だわ。お姉さん、疲れちゃう」

 アハハハハ、と二人は声高に笑った。私はもう、言葉も出ない。この気持ちを中部銀次郎さんが『わかったと思うな』の中で代弁してくれている。

――『オレは下手な奴とまわるとダメなんだ』とか『遅い奴と一緒だとイラついてリズムに乗れない』なんてことを平気で口にするようなゴルファーは全然レベルが低すぎるんじゃないかなって思う――

 そうだ。あの二人は相当に、落ちこぼれなのだ。ゴルフのスコアなんて一年、いえいえ半年しないうちに抜いてやるんだから。でも、今の煮えたぎる怒りを発散せずにはいられない。

 私はふと、いま読みかけの本を思い出した。「現代人のための黒魔術――いやな奴を消す方法――」。ようし、この本で学んだことの成果を試すいい機会だわ。繰り返すが、こうみえて私は勉強家なのだ。この恨みはらさでおくべきか……エコエコアザラク、エコエコ……。

 私は笑顔で先輩たちのところへ駆け寄った。
「せんぱ〜い、ちょっといいですかぁ〜?」


 

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