≪ブログ 〇月△日≫
いや、正しくいうと、ベストスコアを出した「らしい」。
「君、『ゴルフの芯!』をこの頃熱心に読んでるって言ってたから、その効果があったんじゃないか? 『ゴルフの芯』には基本がつまっているんだろ? やっぱ基本て大事だよな。なあ、今度その本貸してくれよ」
同僚は「よろしく」と言って去っていった。僕はしばらく不思議な思いに包まれた。なぜなら、僕は79を出した覚えもないし、『ゴルフの芯』とやらを読んだこともないのだ。同僚は一体、僕を誰と勘違いしているのだろう? 続
(ふうん、ま、人違いってのはよくあることだからな)
ちなみに、陳清波プロがスクェアグリップを勧める理由はいくつか書かれているが、そのうちの一つには、クラブフェースをターンしやすくなることがある。
クラブを振るときは、――ダウンスウィングで右を向いていたフェースをフォロースルーで左を向くようにターンさせます。それは手の中でシャフトを左回しにロールさせることで行いますが、これがスクェアグリップにしているととてもやりやすくなるのです――。
――左手を被せたフックグリップではロールの調整が難しく、ボールを叩こうとするほどロールが大きくなりがちですから、まっすぐ飛ばすのに苦労します――。
スクェアグリップに変えた当初は、スウィングがどうにもぎこちなくなってしまい、ムズムズとしながら振っていた。しかし、『ゴルフの芯』に書かれたスクェアグリップへのステップレッスンを慎重に踏んでいくうちに、自分のグリップとして馴染ませることができたのだ。
と、悠長にネットを眺める時間はもう終わりだ。昼休みが終わり、そろそろ部長が戻ってくる。その前に仕事に取りかからないと、背後でぶつぶつとねちっこい小言が始まってしまう。ああいう説教好きにかぎって、自分には甘いんだから、ったく、たまらないね。
次の日の昼休みにも、昨日のブログのページを開いた。
≪ブログ 〇月×日≫
「★☆さん、旅行先は決まりました?」 まったく見当がつかない。二日間立て続けにこういうことが起こると、さすがに緊張が走る。とりあえず彼女には、「ああ、その話ね。まだ行き先に迷ってるんだ。決まったら報告するよ」とだけ言うと、「部長に呼ばれているから」と嘘をついてその場を去った。私はどうしてしまったのだろう? 続 (旅行ねえ)。そういえば俺も、世界のゴルフ旅行なんていうのを思いついた時期もあった。やっぱり経理課の女の子とか、受け付け嬢とか、ちょっと年上の秘書のお姉さんだとかにその計画を話したっけ。 だが、俺としては、一緒に行かないかい? と彼女たちを口説いたつもりだったのだが、相手の反応がいまいち薄かったため、すぐに計画をやめてしまった。 この『ゴルフで地球を駆け抜けろ!』というのも、たしかその頃に読んだはずだ。旅行のきっかけとして本を持ち出せば、下心がバレにくいと思ったのだ。さてはこいつもその口だな。せっかく相手が答えてくれそうだっていうのに、口説いたことを忘れるなんて、こいつもひどい奴だ。相当な軟派野郎に違いない。
それからしばらくは、仕事に追われ、昼食もままならなかった。数日経って、久しぶりにブログを開いた。
≪ブログ ▲月□日≫
「やあ君、この本を返すよ」 「小学生の息子が突然ゴルフを始めたいだなんて言い出すから、どう指導すればいいものか困っていたところを、この本を君に借りたおかげで助かったよ。突然クラブを買い揃えるのもどうかと思っていたんだが、この本にある手順に習って、私の古いクラブを子ども用に改造したんだ。これがなかなか立派でね、今度見せてあげよう」 部長はすこぶるご満悦の様子だ。この機嫌を損ねてしまわないように、私は「それは何よりで」と当り障りのない返事をした。冷や汗が背筋を流れる。一体、これは誰の本なのだろう? 続
……? ブログを読み終えた俺は、しばらく考えてから、部長の席へ行った。
「この間返しただろう。子どものクラブをつくった話をしなかったかね?」 ぐちぐちと部長の説教が始まったが、俺の耳には届かない。ブログに書かれている内容って俺のことじゃないか。どういうことだ? まさかとは思うが、ドッペルゲンガーでもいるのだろうか。自分のドッペルゲンガーに会うと死ぬという話を思い出し、俺の顔はみるみる青ざめていった。 |
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