しかし、いつまでたっても隣からの音はおさまらなかった。さすがの私も腹を据えかねる。朝食を食べながら、貧乏揺すりが激しくなっていった。よし、隣から漏れてくる音が、どれくらい耳ざわりなのか、こちらも音を立てて教えてやろう。
どうせならラウンド前のストレッチを兼ねようと、『ボールを打たずに上手くなる!』にある「アッパーブローをマスター」するエクササイズをすることにした。
アッパーブローは、ディープフェースに設計されたドライバーの特性をいかすのに有効だが、意識しすぎると、引っかけが出やすくなる。これは、下半身が左に流れ、頭だけを右に倒してアッパーに打とうとしていることが原因だ。
正しくは、体重5:5から、右足6:左足4くらい、右足に重心を残して、クラブヘッドを遠くに投げるイメージでスウィングしなければならない。
その感覚を覚えるには、メディシンボールなど、重さのあるボールを両手で挟んで持ち、目標方向に投げればいいそうだ。そしてこの目標方向を、私は隣に面する壁に決めた。
ドゴン! ドゴン! 隣の音に負けじと私は力一杯にボールを投げる。(おそらく、力んで投げたら意味はないが、今回は特別だ)
********************** ……たしかに私も、ゴルフに備えた準備運動で、≪ちょっと≫音を立ててしまったかもしれない。でもね、だからって音で反撃してくることないじゃない! 直接言ってこいっていうのよ。まあ、いいわ。そっちがその気になら、準備運動に磨きをかけてやろうじゃないの。 『新発想ゴルフ練習術』に、「振り遅れを矯正してロングクラブに自信を」持つドリルが載っている。そのうちのひとつが、――胸を開かないで左へ体重移動する――練習だ。 解説の永井延宏プロによると、――振り遅れるかどうかはダウンの開始部分で決まる――。――ダウンの初動で体が開くと手、胸の動きがワンテンポ遅れる――そうだ。 その悪い動きを改善するには、壁際に体の左サイドを向けて練習するといい。クラブを持たず、両手のひらは開いたままで、トップをつくる。そして、――胸を右に向けたまま体全体を壁まで移動させる――のだ。 ポイントは、――左肩を下げたまま体の左サイドを壁に軽くぶつけるようにする――こと。 私は力加減をしらない。≪軽くぶつけるように≫がうまくできず、ついつい、体当たりしてしまっていた。しかし、(お隣さんに迷惑掛けちゃってるかしら? 後で菓子折り持って謝りにいかないと)とまで考えていたのに、反撃に出てくるなんて。 私は手にクラブを握り、このドリルを再開した。体とクラブを、思いっきり、隣に向かってぶつけてやるんだから!
********************** その壁の向こうでは、中年のおやじがやはり顔をタコのようにして、ボールを繰り返し繰り返し叩きつけている。おやじがボールを投げ始めてから、かれこれもう30分が経過した。最初は笑って見ていたが、さすがに飽きるというものだ。 俺もそろそろ、ゴルフの練習を始めよう。俺は持っていた双眼鏡を≪靴ベラ≫に持ち替えた。 『マンネリゴルフじゃうまくなれん!』に載っているドリルで、「ダウンスウィングからインパクトにかけて手の使い方、力の入れ方」がわかる。 やり方は簡単だ。靴ベラの上にボールを乗せて飛ばすだけだ。――インパクトの瞬間に余計な力を入れると、ボールは靴ベラから落ちてしまい、ミスになる――。 実は、美人OLが毎朝、靴を履く前に練習しているドリルだ。彼女を観察しているうちに、いつのまにか俺まで、ゴルフにのめりこんでいた。まあいま、怒り狂っている彼女を見れば、ゴルフの方がよっぽど魅力があることはたしかだ。 |
||||||||||||||||||
| Copyright(C) 2004 Golf Digest Sha Co., Ltd. All Rights Reserved. | |
![]() |
|