できないできないと思い込んでいると、体は尚更動かなくなる。
そして、すぐに達成できる目標を考える。逆上がりだったら、そうだなあ……
女の子は不安げな表情を浮かべながらも、「うん」と力強くうなづいた。
「いい? 手離すよ、そうれ! 1、2、あっ」
「1、2、3(よしよし)、4、5、やったー!」
『ゴルフ54ビジョン』の著者、ピア・ニールソンによれば、ポジティブ思考になるためには、こうした小さな成功を、一歩一歩積み重ねていくことが大事なのだそうだ。
私も一気に100を切ることだけを考えず、「歩くテンポを変えない」「プレショットルーティンを崩さない」など、すぐできそうなことを目標にし、ひとつずつ実現していった。
ラウンドの度に「今日も100が切れなかった」と落ち込むよりも、「ダボが続きそうなところを、集中してボギーにおさえられた」と成功の実感を得た方が、次のステップへの意欲がわいてくる。すると、100を切る目標はぐっと近づいてくるのだ。
次の日は、音楽室からメトロノームを拝借して私は校庭へ出た。鉄棒の前でチッチッチッチと音を鳴らす。 ゴルフと同じで、鉄棒でもルーティンが緊張を解く手助けになると考えたのだ。鉄棒をつかむと、少女の体はあきらかに硬くなる。右のOBがプレッシャーでアドレスからなかなか動けなくなるゴルファーと同じだ。 だから、鉄棒をつかむ前の動きから動作を決めてしまうことにした。そして、それら一連の動作をスムーズに行うために、メトロノームを使ってリズムをつくることにしたのだ。 この「メトロノームを使いリズムを作る」練習は、プロも実戦している練習方法として『確実に7打縮めるプロゴルファー七つの知恵』に紹介されている。 パッティングでは、「♪=60〜110くらいのビートがよい」とあった。ちなみに、――自分が気持ちよくストロークできるリズムを持つ歌があれば、ハミングしながら打ってみるのもいい方法――だそうだ。 さて、少女のルーティンは、手首をぶらぶらと振る、ジャンプする、など体の力を抜くことを目的にしてつくった。最初は「あ、ぶらぶらするの忘れた」などとつぶやき、少女はぎこちなく行っていたが、だんだんリズムと動きとがマッチしてきた。 これでだいぶクルッと一回転に近づいたが、しかしまだ、あとわずか数センチ、というところで腕が伸び足をついてしまう。 あともう一歩だ。
こうなれば、私の出番。 『ゴルフ力の抜き方飛ばし方』(ゴルフダイジェスト社刊)で、高松志門プロはこう言っている。 ――プロの技術には、文章や言葉では十分に伝えられないものがたくさんあります。――(中略)――たぶん言ってもわからないだろうし、聞いてもわからないと思います。ただ僕のスウィングをじっと見て、盗んでもらうしかありません――。 ――スウィングもそうです。体の動きよりも素振りのときに風切り音が「ビュン!」と鳴る、そのイメージを持つほうがずっと効果的です――。 これを読んでからというもの、私のスウィングは「結構いい感じ」になったと思う。ナイスショットのときに出る音をイメージしながらクラブを振るようになったのだ。そのかいあってか、ティショットでもへなちょこな球がほとんど出なくなった。 それはさておき、逆上がりを繰り返している今、私は内心で(腕がつる!)とひぃひぃ叫んでいる。それでも動きを止めずにいると、少女は自然とルーティンからのチャレンジを始めた。私はぷるぷる震える腕にムチを打ちつつ、横目で少女の様子を見守った。
そしてついに、「できたー!!」
それから数日後、チチチチチッ……チチチチチッ……、校庭ではいくつものメトロノームの音が重なるようになった。 先生とは私のことではない。逆上がりに成功した少女のことだ。彼女は逆上がりのコツだけでなく、教え方のコツまで同時に盗んでいたらしい。今では下級生たちに逆上がりを教えている。子供は本当に恐ろしいほど、観察力を持っているのだ。 |
||||||||||||||||||
| Copyright(C) 2004 Golf Digest Sha Co., Ltd. All Rights Reserved. | |
![]() |
|