ゴルフの図書館
BOOKS 19番ホール
2006.8.25

コーチ力。


『ゴルフ54ビジョン』


 ある日の放課後、職員室に生徒が尋ねてきた。
「先生、私、どうしても逆上がりができないの。クラスでできないのは私だけになっちゃって恥ずかしいんだ」
 体育の得意でない女の子だ。逆上がりができないことで、彼女はもっともっと体育の授業が嫌いになってしまうかもしれない。私は少しあせり、何とかしてあげたいと考えた。しかし、自らを振り返れば、初めて逆上がりが出来たときのことなど覚えていない。何年前か数えることさえ億劫だ。
 しばらく思案して、私は思いついた。最近、私が初めてできて喜んだことといえば、ゴルフで100を切ったことだ。そのときのことを、よく思い出してみることにした。


『ゴルフ54ビジョン』

ピア・ニールソン/川野美佳・訳
●B6判・並製・本文232頁
●1575円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊




 できないできないと思い込んでいると、体は尚更動かなくなる。
『ゴルフ54ビジョン』(ゴルフダイジェスト社刊)を参考に、まずは「私はできるんだ」と自信を持たせてあげなくてはいけないだろう。私は生徒を連れて校庭へ出ると、鉄棒の前に来た。

 そして、すぐに達成できる目標を考える。逆上がりだったら、そうだなあ……
「体を一気に一回転させようとしないで、最初は5秒ぶらさがってみよう。ただし、腕を伸ばしちゃダメよ。逆上がりの途中で鉄棒から体が離れちゃうのは、腕を伸ばしちゃうことが原因なの。だから、腕を曲げたまま5秒頑張ろう。」

 女の子は不安げな表情を浮かべながらも、「うん」と力強くうなづいた。
私は女の子の体を持ち上げ、高鉄棒を両手でつかませた。

「いい? 手離すよ、そうれ! 1、2、あっ」
 女の子は2秒で手を離してしまった。それでも頑張っていることは、真っ赤な顔を見ればわかる。女の子はくじけずに何度もチャレンジを続けた。そして休憩を入れつつ1時間後、

「1、2、3(よしよし)、4、5、やったー!」
見事5秒持ちこたえた。女の子は鉄棒から手を離すと、あまりの嬉しさに、涙を浮かべて私に抱きついてきた。その可愛らしい、小さな頭をなでてあげる。
「できるじゃない! よし、明日はもう一歩先にチャレンジしようね」

『ゴルフ54ビジョン』の著者、ピア・ニールソンによれば、ポジティブ思考になるためには、こうした小さな成功を、一歩一歩積み重ねていくことが大事なのだそうだ。

 私も一気に100を切ることだけを考えず、「歩くテンポを変えない」「プレショットルーティンを崩さない」など、すぐできそうなことを目標にし、ひとつずつ実現していった。

 ラウンドの度に「今日も100が切れなかった」と落ち込むよりも、「ダボが続きそうなところを、集中してボギーにおさえられた」と成功の実感を得た方が、次のステップへの意欲がわいてくる。すると、100を切る目標はぐっと近づいてくるのだ。    
伊沢利光の結論[アプローチ&パター]

『確実に7打縮めるプロゴルファー七つの知恵』
江連忠
●四六判・上製・本文256頁
●1680円(税込)
●講談社刊

 次の日は、音楽室からメトロノームを拝借して私は校庭へ出た。鉄棒の前でチッチッチッチと音を鳴らす。

 ゴルフと同じで、鉄棒でもルーティンが緊張を解く手助けになると考えたのだ。鉄棒をつかむと、少女の体はあきらかに硬くなる。右のOBがプレッシャーでアドレスからなかなか動けなくなるゴルファーと同じだ。

 だから、鉄棒をつかむ前の動きから動作を決めてしまうことにした。そして、それら一連の動作をスムーズに行うために、メトロノームを使ってリズムをつくることにしたのだ。

 この「メトロノームを使いリズムを作る」練習は、プロも実戦している練習方法として『確実に7打縮めるプロゴルファー七つの知恵』に紹介されている。

 パッティングでは、「♪=60〜110くらいのビートがよい」とあった。ちなみに、――自分が気持ちよくストロークできるリズムを持つ歌があれば、ハミングしながら打ってみるのもいい方法――だそうだ。

 さて、少女のルーティンは、手首をぶらぶらと振る、ジャンプする、など体の力を抜くことを目的にしてつくった。最初は「あ、ぶらぶらするの忘れた」などとつぶやき、少女はぎこちなく行っていたが、だんだんリズムと動きとがマッチしてきた。

 これでだいぶクルッと一回転に近づいたが、しかしまだ、あとわずか数センチ、というところで腕が伸び足をついてしまう。

 あともう一歩だ。

ゴルフ力の抜き方、飛ばし方

『ゴルフ力の抜き方、飛ばし方』
高松志門
●B6判・並製・本文192頁
●1575円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊

 こうなれば、私の出番。
「いい、よく見てるのよ」
私は少女の前で逆上がりを何度も繰り返した。逆上がりの動きを、イメージとして少女の頭に叩き込んでもらうのだ。

『ゴルフ力の抜き方飛ばし方』(ゴルフダイジェスト社刊)で、高松志門プロはこう言っている。

――プロの技術には、文章や言葉では十分に伝えられないものがたくさんあります。――(中略)――たぶん言ってもわからないだろうし、聞いてもわからないと思います。ただ僕のスウィングをじっと見て、盗んでもらうしかありません――。

――スウィングもそうです。体の動きよりも素振りのときに風切り音が「ビュン!」と鳴る、そのイメージを持つほうがずっと効果的です――。

 これを読んでからというもの、私のスウィングは「結構いい感じ」になったと思う。ナイスショットのときに出る音をイメージしながらクラブを振るようになったのだ。そのかいあってか、ティショットでもへなちょこな球がほとんど出なくなった。

 それはさておき、逆上がりを繰り返している今、私は内心で(腕がつる!)とひぃひぃ叫んでいる。それでも動きを止めずにいると、少女は自然とルーティンからのチャレンジを始めた。私はぷるぷる震える腕にムチを打ちつつ、横目で少女の様子を見守った。

 そしてついに、「できたー!!」
 少女は成功した。一度できると、すっかり体はその動きを覚え、少女ははしゃぎながらクルクルと回った。

 それから数日後、チチチチチッ……チチチチチッ……、校庭ではいくつものメトロノームの音が重なるようになった。
「先生! 懸垂5秒できたよ」
「じゃあ次は、自分のリズムをつくりましょ」

 先生とは私のことではない。逆上がりに成功した少女のことだ。彼女は逆上がりのコツだけでなく、教え方のコツまで同時に盗んでいたらしい。今では下級生たちに逆上がりを教えている。子供は本当に恐ろしいほど、観察力を持っているのだ。


 

Copyright(C) 2004 Golf Digest Sha Co., Ltd. All Rights Reserved.