僕は父さんが思う以上に勉強家だ。一週間前に、練習場へ行く約束をしてから、僕は子供向けのレッスン書を読んで、あらかじめ予習しているんだ。
塾で一番美人の先生に、「どんなことも、《予習・復習》が大切よ」って散々言われているからね。僕は美人の言うことは、何だって聞いてしまう。
それはともかく、昼間に父さんの書斎へ忍び込んでは、父さんがすでに買い揃えている本をちょっとずつ、ちょっとずつ読み進めていった。
たとえば、『ゴルフ[ジュニア]ブック』(ゴルフダイジェスト社刊)を読んで、僕は毎日、タイガー・ウッズの≪モノマネ≫をしてきた。
「キミたちはモノマネの天才です」といって、タイガー・ウッズ選手と宮里藍選手を見本に、連続写真をみせながら、どこを真似たらいいのか教えてくれているのだ。
タイガーであれば両足を広げた下半身が、きれいなAの形になっていて、体の中心が動かない。右半身側(目標方向に向かって)から写した写真では、上げるときと下ろすときとで、クラブが同じ場所を通っていることがわかる。
このタイガーを真似て素振りをするとき、僕は『ジュニアゴルフ』(池田書店刊)にならって、タオルを振っていた。 タオルの片方の端を結び、タオルがたるまないように振る。僕の家は賃貸マンションだから、クラブを振り回して壁に傷でもつけたら大変だ。あとで敷金が返ってこなくなっちゃうからね、ってこれは母さんの口癖。 また、ハンガーを使ったスウィングチェックもある。
《1》ワイヤーハンガーを「くの字」につぶす 左右対称のスウィングを心がけて、「ブラーン、ブラーン」と力まず、ボールに当てに行くクセがついていないかどうかを確認する。 このスウィングチェックとともに、毎日タイガーを思い浮かべて素振りし続けてきたおかげで、父さんに「お前のスウィングはとってもきれいだ」と言ってもらえたんだろう。
とそこへ、父さんが大騒ぎしていたせいか、《教え魔》とおぼしきおじさんが近づいてきた。 このおじさんはさっきまで、隣にいたお姉さんに、しきりとレッスンしようとしていたのだ。あまりにしつこくて、お姉さんはとうとう帰ってしまった。今度は標的を若い女の人から子供に変えてきたようだ。
しかし、父さんは「いいスウィング」というほめ言葉にすっかり気をよくしてしまっている。
「ほう! そりゃあ、すごい。それじゃあ、僕、もう少しコックをつけてごらん」
「なんで? ねえ、おじさん、僕は手首を曲げてるつもりだけど、これじゃ足りないの?」 へへ、どんなもんだい。教え魔おじさんはぴゅーっと逃げていった。 『わが子をタイガーにする方法』(河出書房新社刊)に紹介されていた「教え魔の撃退法」だ。たいていの教え魔は、3回ほど「なぜ」と聞き返せば、去っていく。 それにしても教え魔おじさんにコーチ役をとられかけたっていうのに、父さんは黙って見ているなんてひどいや。それとも、そろそろ僕のスウィングを見ているだけじゃ飽きてきたのかな。仕方がない。
「ねえ、お父さん。僕練習しすぎてちょっと疲れちゃった。休憩するから、その間にお父さんのスウィングを見せてよ」 父さんはにっこり、すっごく嬉しそうに、自分のキャディバッグからドライバーを抜いた。『ゴルフ[ジュニア]ブック』によれば、練習で集中力を切らさないためには「アメとムチ」が必要らしい。教える側の父さんにも、「アメ」をあげなくちゃね。ふ〜っ、大人に付き合うのも楽じゃないよ。 |
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