ゴルフの図書館
BOOKS 19番ホール
2006.7.28

犯人はお前か!?


『マンネリゴルフじゃ上手くなれん』


 ふーっ、今日は練習がはかどったなぁ。いい汗かいて、気持ちがいい。
 練習場の帰り道、浮かれ気分で歩いていると、当然、背後に衝撃が走った。続いて、ひょろりと背の高い、ジーパン姿の男が、物すごい勢いで私の横を駆け抜けていった。
 男がぶつかってきた背中が痛む。「バカヤロー! 気をつけろ!」私はありったけの声で怒鳴った。しかしその声が届きようもないくらい、すでに男の姿は小さくなっていた。相当急いでいるようだ。
 やれやれ。ため息をひとつつくと、またも背後に衝撃が走る。今度は腕を後方に強くねじられた。なんなんだ今日は一体!?   


『マンネリゴルフじゃ上手くなれん』

●B6判・並製・本文192頁
●1470円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊




「警部、見つかりました! コンビニ強盗犯です!」
 ご、強盗犯!? ぎょっとして後ろに目をやると、私の腕をおさえていたのは若い警察官だった。あまりの衝撃に言葉が出ない。すぐに、彼より年配の警察官がもう一人現れた。

 どうやら何事かの事件に巻き込まれているようだ。
「ご、誤解です!」
 私はつかまれた腕をほどこうと、必死に体を揺らした。しかし抵抗すればするほど、腕はがっちり、固く締め上げられる。

「何が誤解なものか。身長180センチ程度、痩せ型、紺色のジーパンに、白いTシャツ姿、年齢は30歳前半から半ばくらい。すべて目撃談と一致している。お前が強盗犯に違いない!」
 目の前が真っ白になった。なぜそんな疑いを?

「だったら聞こう。これは何だ?」
 私に断りもなく、年配警部はキャディバッグからカバーを外すと、クラブの中に紛れていた≪刀≫を抜き出した。

「これが、従業員をおどした刀だな?」
「ち、違います! よく見てください、その刀は偽者です。玩具なんですよ! 『マンネリゴルフじゃ上手くなれん!』(ゴルフダイジェスト社刊)のドリルで使っているんです!」

 無罪を証明するために、私は無我夢中で説明した。

『マンネリゴルフじゃ上手くなれん!』は、スウィング中の≪切り返し≫をテーマにしたレッスン書だ。

 ユニークな道具を使った練習法が特徴で、この刀は、――トップからダウンで行う「支点を手元から離すという動き――を理解するために使用する。

 すなわち、――イメージとしては、クラブのかわりに刀を持ってスリークォーターのトップまでいったら、サヤはトップの位置に残し(サヤを動かさないで)、刀だけをスッと抜き取るようにダウンスウィングを開始する――。

 練習場では、親しい従業員に刀のサヤを持ってもらう役をお願いした。彼に頼めばそのことを証言してくれるだろう。

 
ボールを打たずに上手くなる!

『ボールを打たずに上手くなる!』
石渡俊彦
●A5判・並製・本文144頁
●1470円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊

「ふん、いまいち納得できないが、まあいい。刀のことはとりあえず置いておく。しかし、このゴムチューブはどう説明する? クラブのすき間にさりげなく忍ばせていたようだが、これで貴様は、従業員の首をしめたんだろ! まあ、刀と一緒で脅し目的だったようだがね。従業員は軽症で済んでいるそうだからな」
「そ、それは何よりで……」
「ふざけるな! 従業員がどれほど恐ろしい思いをしたと思っているんだ! 貴様は決して罪を免れんぞ!」
「で、ですから僕は、な、何もしていないんですって……。そのゴムチューブだって、」

 私は再び説明した。ゴムチューブは≪たすきがけ≫に用いるためのものだ。

『ボールを打たずに上手くなる!』(ゴルフダイジェスト社刊)で解説されているが、――ゴムチューブを使って、たすきがけすることで、自然に肩甲骨が上がった状態になって、腕自体も高く上げやすくなる――。

 その状態でスウィングすれば、≪理想的な高いトップを実現≫するために最も必要な、肩甲骨の柔軟性を高めてくれるのだ。

「ストレッチは日々の積み重ねが大事なんです。練習場へは必ず持っていくんですよ」

 涙ながらに訴えたが、それでもまだ警部は怪しんだ目つきで私をにらみつけてくる。もう、ダメだ。私の気力はどんどん萎えていった。そのとき、私の腕をつかんでいる警察官が大声をあげた。

「警部! キャディバッグのポケットを調べてください! ≪かなづち≫のようなものがのぞいています」
「何だと!?」

「そ、それは……」
 スウィングの≪右手の使い方≫を体感するための小道具です……。『易しいゴルフ57のツボ』(徳間書店刊)に載っています……。説明したいが、嫌疑をかけられているショックから、私の心は救いようもなく、衰弱していた。

「やはり貴様は怪しい! 警察までこい!」
 警部のがなり立てる声も、自分とは無縁の、どこか遠くの方から聞こえてくる。もう、どうにででもなればいい。私は数分前、練習場にいた自分を思い浮かべた。ついっさきまで、あんなにいきいきとゴルフをしていたのに。人生の惨さを思い、頬に涙がつたった。

易しいゴルフ57のツボ

『易しいゴルフ57のツボ』
日刊ゲンダイ特別編集
●新書サイズ・並製・本文192頁
●780円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊

 とそこへ、けたたましいサイレン音が鳴り響いた。警部のもとへ無線が入る。
「何!? 犯人が見つかった? いや、犯人なら今ここに……え? 従業員が顔を見て確認しているから間違いない? そ、それは本当か!?」

 警察の二人は、私へ謝罪することも忘れ、一目散に駆けていった。まったく、とんだ目に遭ったものだ。

 そうか真犯人はきっと、さっきぶつかった男だろう。そういえば、俺と似たような背格好をしていた気もする。あの慌てようは間違いない。

 ふふ、それにしても、俺が強盗犯だって? 俺はそんな手洗い仕事は好まない。ましてや人の首を締めるなんてもってのほかだ。それに何より、俺の仕事に道具はほとんど必要ない。必要なのは、この口だけ。そう、俺は詐欺師なのだ。


 

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