しかし本当に驚いたのは次の日だ。お告げ通り、『新モダンゴルフ3』を読むと、悩みはすぐに解消した。
すなわち、アドレスの長い人は、止まらなければいい。
レッスン漫画である本書の登場人物、江連忠プロによると、一流選手は――アドレスしたときも、どこかが必ず動いている――。――完全に止まった状態から動き出すのはプロでも難しい――そうだ。アドレスで止まってしまうと、スウィングにとってはデメリットだらけになってしまうという。
では止まらないアドレスはどうやればつくれるのか。それは、
≪1≫ グリッププレッシャーをできるだけ0(ゼロ)に近づける
本書には、それらを実行するときのコツや練習方法も解説されていた。最後に、江連プロは比叡山のお坊さんに教えてもらった言葉を思い出している。
――万物は無始無終 …… 始まりもなければ終わりもない――。そこから、――ゴルフのスウィングも止まることなく流れていくのが自然――だと語っている。 お坊さんの言葉に心が動くところは私と似ているかもしれない、と勝手に仲間意識を覚えた。というのは、そもそも深夜に墓参りへやってきたのは、じいちゃんの法事のときに、この寺の住職からこんな話を聞いたからだった。 この寺は深夜に墓参りにくる人が多いらしい。彼らは、家族へも恋人へも友人へも誰にも言えない秘密を、こっそり先祖に打ち明けているそうだ。すると後日、すっきりした表情で、今度は昼間に顔を出すという。 「ご先祖さんに語るということは、つまり、悩んでいる自分と向き合うということでしょうな。本音を口にすることで、見つかる答えもあるのでしょう」 住職はそう言って話を締めくくった。ようし、それならば、私も胸につかえている悩みをじいちゃんに相談しよう、そう思い立ったのだ。 しかしまだ、「すっきりした表情で、今度は昼間に顔を出す」ことはできない。悩みはまだある。今夜も墓場へ行った。 「じいちゃん、この間は、『新モダンゴルフ3』を教えてくれてありがとう。おかげで、悩みが解消したよ。でさ、もうひとつ聞いてほしい悩みがあるんだ」
……。 「俺、虫が大ッ嫌い! なんだよ。ラフにボールが入ったときなんて、リカバリーショットを成功させることよりも、虫が足にまとわりつく不安の方が大きいくらいだ。男として、情けないよな。実はさ、今度の日曜日に、意中の女の子とラウンドするんだけど、その前にいい虫対策を教えてもらえないかな」
……。 「『この方法で生きのびろ! ゴルフ場サバイバル篇』(草思社刊)を読みなさい」 お告げが出た。ああ、なんて懐かしい声。私は感動に胸を震わせ、「サンキュ」と思わず地蔵を抱き締めた。 翌日、一目散で本屋へ走り、本書を手にとる。あった、あった。 ≪ボールの近くにヘビがいるとき≫≪ダニにたかられてしまったとき≫≪鳥が襲いかかってきたとき≫≪ハチの巣を叩いてしまったとき≫ ……など危険な虫や動物に遭遇したときの対処法、傷を負ってしまったときの応急処置、それら危険な目に遭わないための防護策が詳しく紹介されていた。
再び深夜の墓場。
「ちょっと待て。お前がこうして私の助言を聞けるのは、ここの住職の話を聞いたからだろう?」 「『ゴルフは心の格闘技』(ゴルフダイジェスト社刊)にあるように、感謝の心を忘れては、ゴルフも上手くはならん! だから住職へもお礼を言いなさい。そうだ、いま新しいお堂の建設を予定しているはずだから、寄付金を渡してあげるといい」 や、やけに具体的な指示だな。それに、じいちゃんの声ってこんな声だったっけ? 今まではそう信じ込んでいたけど、長いセリフになると違和感がある。なんだろう?
「わかった。じゃあ、明日は昼間にくるよ」 と思わせといて、地蔵のある道を曲がったところで、身をひそめた。すると少しの間を置き、カシャ……カシャ……カシャ……と、砂利道を歩く音が響いた。しばらくその音に耳をすまし、ころ合いを見計らうと、「今だ!」と私は一気に飛び出した。 足音の主の、「ひえっ!」という大きな叫び声が響く。グシャッと尻餅の音が聞こえる。仰天して震える体の振動が伝ってくる。私はその顔に持っていた懐中電灯をあてた。
「住職!」 直接相談に乗ればいいものを、ややこしいことをしたものだ。ゴルフも同じで、難しく考えるほど体の動きが複雑になり大叩きする。何ごともシンプルに。まあ、アドバイスが役立ったのは本当だから、次にくるときは菓子折りくらい持ってきてやろう。 |
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