ゴルフの図書館
BOOKS 19番ホール
2006.2.24

ゴルファーは、見た!


『マンネリゴルフじゃ上手くなれん』


後輩:「課長のスウィングって、きれいですよねー」
課長:「いやぁ、ありがとう。でも、スコアが伸びなくてね」
後輩:「クラブが合ってないんじゃないですか? スウィングがきれいなのに、もったいないなぁ」
課長:「そ、そうかな」
部長:「仕事に限らず、ゴルフでも部下に慕われるとは、大した器だよ」
課長:「そんな、そんな。めっそうもございません」
得意先:「家族サービスもバッチリだそうじゃないですか。先日の×△の結婚式にご夫婦でお見えになったとき、奥様から聞きましたよ」
課長:「取引先の手前、私を立ててくれただけですよ」

 今日のゴルフで、課長の私は有頂天だった。一緒に回った仲間たちが、一様に、褒めてくれたからだ。どれも、日頃から自負していることばかりで、見ている人は見てくれているものだと、えらくいい気分がしていた。
 しかし、それはまやかしだったのだ。ホールアウト後に、私は観てしまった……。


『マンネリゴルフじゃ上手くなれん』
山本信弘
●B6判・並製・本文192頁
●1470円(税込)
●ゴルフダイジェスト社刊




 ドカン! と花火が上がったような音を聞いたと思うと、私は、風呂場を見下ろしていた。後輩、部長、得意先が、湯につかりながらだべっている。

後輩:「課長遅いですね。携帯電話で話してましたけど……」
部長:「その電話が長引いてるんだろう」
得意先:「どうやら、クレーム処理のようでしたよ」
(なに!? 私はここにいる!)

後輩:「課長は形にばかりこだわるからな……。たまにポカの製品を仕入れて苦情が殺到するんですよ。機能性より、見た目のデザインばかりを優先してしまうから……」
部長:「う〜ん、スウィングと同じだな」
得意先:「『マンネリゴルフじゃ上手くなれん!』にも、スウィングで大事なのは、形よりもリズムだって書かれてますよ」

 彼らの話に口を挟もうとしたが、思うように声が出ない。仕方がないので、しばらく傍観することにした。

後輩:「あっ! その本ならボクも読みました。──リズムひと筋で練習に取り組めば、100を切れない人でも、半年ぐらいで90を切れるレベルのショットが打てるようになる──って言葉には、痺れたなぁ」
部長:「ほほぉ。興味深いね」
得意先:「──ナイスショットしたとき、スウィングの形が占める比率は2割ぐらいで、速さ、すなわちリズムとテンポが8割を占める──。では、リズムをつかむには、──速くスウィング──すればいい」

 速くだと!? 私はずっとゆっくりを心がけてきたというのに。ゆっくり振っている一流プロだっているじゃないか。
 たとえば岡本綾子プロは、『ゴルフちょっと変えたら』(青春出版社刊)の中で、リズム感をゆっくりするために、わざとダラダラ歩いていると語っている。それはどうなるんだ、え!? 説明してみろ!

ゴルフちょっと変えたら

『ゴルフちょっと変えたら』
岡本綾子
●新書判・並製・本文216頁
●767円(税込)
●青春出版社刊

後輩:「ゆっくり振っているように見えるプロもいますが、アマチュアに比べると、スウィングのスピードは速いそうです。計測結果も載っていたんですが、── 一般のゴルファーが1・6秒、ゆっくりリズムのプロ(岡本綾子など)が1・2秒、スウィングテンポの速いプロ(タイガー・ウッズやジャンボ尾崎など)は、0・9秒──。へへ、よく覚えてるでしょう。」

部長:「プロはスウィングに無駄がないからね。速くてもゆっくりに見えてしまうわけか」
得意先:「ご名答。──飛んで曲がらないスウィングを身につけるには、スウィングにもある程度の速度が必要──だとあります。習字を書く時に、筆の走りが丁寧すぎると、かえって文字が震えてミスをするでしょう? それと同じだそうです」

 そう言われれば……岡本プロのダラダラ歩きも──ゆっくりと歩き、ボールに向かったらパッと打つ──と続いていた。私の場合は……

後輩:「課長と反対ってことですね。スウィングには、妙に丁寧に時間をかけるのに、打ち終わったら、せかせか走り回っているじゃないですか」
部長:「はっはっは。君は典型的サラリーマンだな。さっき本人の前ではおだてていたじゃないか。裏と表が実に明快だ」
得意先:「ふっふっふ。課長が聞いたら、怒りますよ」

 私の体はわなわなと震えていた。聞いてるんだよ! いま、目の前で!

この方法で生きのびろ! ゴルフ場サバイバル編

『この方法で生きのびろ! ゴルフ場サバイバル編』
ジョシュア・ベイビン、デビッド・ボーゲニクト、ジェームズ・クレース/倉骨彰・訳
●四六判変型・並製・本文188頁
●1260円(税込)
●草思社刊

後輩:「でも、家庭は円満みたいじゃないですか」
部長:「残業続きの上、あれだけゴルフにのめりこんでいるというのになぁ」
得意先:「私もサラリーマンだってこと忘れてませんか? さっきの奥様の話は、リップサービスです。本当はゴルフばかりで、ちっとも奥様の話を聞いてくれないって、愚痴をこぼされてました」

 体がいうことをきかず、もどかしい。

後輩:「うわ、Cさんも人が悪いなあ。事実と正反対のことをわざわざ口にするなんて」
部長:「奥さんのために、『この方法で生きのびろ! ゴルフ場サバイバル編』(草思社刊)でも彼にプレゼントしてやるか。『ゴルフ中毒』の徴候を調べるチェック項目があるんだよ」
得意先:「調子が悪いのをクラブのせいにする、YES、とかですか?」
(…………YES。)

後輩:「さっきボクが、スコアが伸びないのは、クラブのせいだって言ったら、納得しかけてましたものね」
部長:「まあ、そんなところだ。定期的にゴルフの予定を入れている日に、仕事が入ってつぶれるとむなしい気分になる、とか、支出はゴルフ関係が最優先とか、自分のプレーに満足できないのに、ゴルフは絶対やめられない、とか」
得意先:「課長に全部当てはまりますねえ」

 た、たしかに全てYESだ。しかし、ゴルフ中毒の自覚はあったが、自分がこんなに蔑まれていたとは知らなかった。ちくしょー。私はなんて、馬鹿だった……ん……だ……

後輩:「課長! 課長!」
部長:「君、大丈夫かね!?」
得意先:「看護婦さん、看護婦さん! 意識が戻りました!」

 気づくと病院のベッドの上にいた。緊迫した表情で三人が私の顔をのぞきこんでいる。

 意識がはっきりしてから受けた説明では、キャディマスター室の周辺で、携帯電話を利用していた私は、背後からカートに突っ込まれたらしい。花火のような一瞬の轟音は、ぶつかったときのショックだったのだろう。

 すぐさま病院に担ぎこまれたそうだから、風呂場で彼らが私を嘲笑していたのは、まぼろしだったということだ。包帯をぐるぐる巻きにされた私は、ほっと胸をなでおろした。

 ところが、退院後……。部長が私の席へやってきた。
「部長、ご迷惑をかけて、本当にすみませんでした」
「いやいや、無事に退院できて何よりだよ。ところでね、退院祝いとは別に、君に渡そうと思っていたものがあるんだ。その、今回の事故でゴルフはこりごりかもしれないが、面白い内容だったものだから」

 部長からの贈り物を手にとった私は、言葉を失った。それは、一冊の本で、タイトルは、『この方法で生きのびろ! ゴルフ場サバイバル編』だった……。


 

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